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給与明細の残業代を見て、「……なんか少なくない?」と思ったことはありませんか。
でも、確かめようとして検索すると、出てくるのはこういうページばかりです。
- 未払い残業代を請求しましょう
- 証拠を集めましょう
- 弁護士に相談しましょう
いや、そこまでするつもりはないんですよ。
会社と揉めたいわけでもないし、辞めるつもりもない。ただ、合っているかどうかだけ知りたい。それだけなんですよね。
先に結論を書きます。
残業代のズレは、「残業時間の数」より「1時間あたりの単価」のほうで起きやすいです。
そして、その単価が正しいかどうかは、あなたの給与明細だけで確かめられます。 会社に聞く前でも、証拠を集めなくても、今日できます。
この記事では、その手順を書きます。請求の話はしません。「確かめる」ところまでの記事です。
まず結論:ズレるとしたら「時間数」より「時給」です
残業代の計算は、突き詰めるとこれだけです。
残業代の計算式
1時間あたりの単価 × 残業した時間 × 割増率
このうち、残業した時間は自分でも数えられますよね。タイムカードもあるし、体感とも照らせる。だから、ズレていれば気づきやすいです。
問題は1時間あたりの単価のほうです。
明細には、単価が載っていません。「時間外手当 24,300円」のような結果だけが書いてあって、いくらの単価に何時間を掛けたのかは書いていない。
つまり、いちばんズレやすいところが、いちばん見えないんです。
だから「なんとなく少ない気がする」が消えないんですよね。感覚は残るのに、確かめる手段がない。
でも、この単価には法律で決まった作り方があります。そこを知ると、自分で逆算できるようになります。
「なんか少ない気がする」が消えない理由
ひとつ、先に言っておきたいことがあります。
この記事は、会社を疑う記事ではありません
残業代の単価がズレる原因は、悪意よりもこういうものが多いです。
・昔の設定のまま更新されていない
・手当が新しく増えたときに、単価の計算に反映し忘れている
・「この手当は基礎に入れなくていい」という解釈が、間違って定着している
給与計算をしている総務の人も、たいてい自分の仕事を必死でやっています。責める話にしないほうが、結果的に早く直ります。
ただ、確かめないままにしておく理由もないんですよね。自分が働いた時間がいくらになっているかを知るのは、後ろめたいことではないので。
残業代の"時給"は、基本給だけでは出ません
ここがこの記事のいちばん大事なところです。
ネットの解説を読むと、けっこうな確率でこう書いてあります。
基本給 ÷ 所定労働時間 = 1時間あたりの単価
これ、正確ではありません。
厚生労働省の「確かめよう労働条件」には、こう書かれています。
月給額(各種手当を含んだ合計)÷1年間における1か月平均所定労働時間数
厚生労働省「確かめよう労働条件」
各種手当を含んだ合計、です。基本給だけではありません。
外していいのは、法律が決めた7つだけ
労働基準法37条5項には、こう書かれています。
第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
労働基準法 第37条第5項
「その他厚生労働省令で定める賃金」の中身が、労働基準法施行規則21条です。合わせると、外していいのはこの7つになります。
| # | 割増の基礎から外していい賃金 |
|---|---|
| 1 | 家族手当 |
| 2 | 通勤手当 |
| 3 | 別居手当 |
| 4 | 子女教育手当 |
| 5 | 住宅手当 |
| 6 | 臨時に支払われた賃金 |
| 7 | 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
そして、ここが決定的なんですが。
7つは「制限的に列挙」されたもの
愛知労働局の解説資料には、この7つは「制限的に列挙」されたものであり、これに該当しない賃金はすべて算入しなければならない、と書かれています。
つまり、「その他いろいろ」は無いということです。7つに当てはまらない手当は、基礎に入れる。それが原則です。
工場でよくある手当は、たいてい基礎に入ります
さっきの7つを、もう一度見てください。
工場の給与明細によく並んでいる手当が、ほとんど入っていないことに気づきませんか。
- 資格手当(フォークリフト、危険物、技能士など)
- 作業手当・危険作業手当
- 精皆勤手当
- 交替手当
- 役職手当(班長・リーダーなど)
- 技能手当・職務手当
これらは7つのどれにも当てはまりません。ということは、割増の基礎に入るのが原則です。
ここ、けっこう効きます。
たとえば資格手当が月5,000円ついている人の場合、その5,000円が単価の計算に入っているかどうかで、残業代が変わります。金額としては小さく見えるかもしれませんが、毎月・毎年ずっと続く差なので、放っておくと積み上がります。


「そもそも手当がつく資格ってどれなんだろう」という方は、こちらもどうぞ。同じ資格でも職場によって0円になることがある、という話です。
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工場で"手当がつく"資格はどれ?|同じ資格が0円にもなる、外さない選び方
資格を取れば手当がつく、とは限りません。同じ乙4でも0円の会社があります。限られた時間とお金で外さないための、資格の選び方です。
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「住宅手当」でも、除外できないことがあります
もうひとつ、見落とされやすいところです。
7つの中に名前があっても、自動的に外せるわけではありません。
愛知労働局の資料には、手当の名称ではなく実質で判断する、と明記されています。住宅手当を例に、こう整理されています。
◯ 外していい住宅手当
・家賃の一定割合を支給する(住宅にかかる費用に応じて決まる)
・家賃の額を段階で区切って、費用が増えるほど支給額も増える
✕ 外せない住宅手当
・全員に一律の定額で支給している
・賃貸なら2万円・持ち家なら1万円のように、形態ごとに一律定額
・扶養家族の有無など、住宅以外の要素で決まっている
家族手当も考え方は同じで、扶養している家族の人数に応じて支給されるものが外せる対象です。
なので、こういうケースは要チェックです。
「うちの住宅手当、全員一律で1万円だな」
その場合、その1万円は割増の基礎に入る可能性があります。
ただし、これは実際の支給ルール次第です。「違法だ」と決めつけないでください。 手当の決まり方によって答えが変わるので、確かめる価値があるところ、という理解で十分です。
割増率は、法律で決まっています
単価の話が済んだので、掛ける率のほうも押さえておきます。ここは短く。
| 種類 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外(法定労働時間を超えた分) | 25%以上 |
| 1か月60時間を超える時間外 | 50%以上 |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
| 深夜(22時〜翌5時) | 25%以上 |
月60時間を超えた分の50%は、以前は中小企業には猶予されていましたが、2023年4月1日にその猶予が廃止されました。今はすべての企業が対象です。自分の会社は中小だから関係ない、ではなくなっています。
なお、深夜の割増(25%)と、会社が独自に払っている夜勤手当・交替手当は別のものです。ここは話が長くなるので、別の記事で書きます。
割増率の一覧や、残業時間の上限規制についてはこちらにもまとめてあります。あちらは「これから増やす」話、この記事は「もう働いた分が合っているか」の話です。
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3ステップで検算してみる
では、実際に自分の明細でやってみます。
ステップ1:基礎になる月額を出す
その月の支給額の合計から、7つに当たる手当だけを引きます。
- 引くもの:家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時の賃金、1か月を超える期間ごとの賃金
- 引かないもの:資格手当、作業手当、精皆勤手当、交替手当、役職手当など
⚠️ 残業代そのもの(時間外手当・深夜手当)は、この合計に入れません。 これから計算しようとしている結果なので、当たり前といえば当たり前ですね。
ステップ2:1か月平均所定労働時間で割る
出た金額を、1か月あたりの平均所定労働時間で割ります。出し方は次の見出しで説明します。
これで1時間あたりの単価が出ます。
ステップ3:割増率を掛けて、明細と比べる
単価 × 残業時間 × 1.25(時間外の場合)。
これが、明細の時間外手当とだいたい合っているか。数百円のズレは端数処理の差なので気にしなくていいです。見るのは、明らかに違うかどうかです。
例で見てみます
一般的な数字で1つだけ。
計算例
・支給合計 260,000円(うち通勤手当 10,000円、家族手当 10,000円)
・1か月平均所定労働時間 160時間
・その月の残業 20時間
まず7つを引く:260,000 − 10,000 − 10,000 = 240,000円
単価:240,000 ÷ 160 = 1,500円
残業代:1,500 × 1.25 × 20時間 = 37,500円
もしここで、基本給だけ(たとえば200,000円)で計算していたら、単価は1,250円になり、残業代は31,250円。同じ20時間でも6,250円変わります。
この差が、毎月ずっと続くわけです。
1か月平均所定労働時間の出し方
ステップ2で使う数字です。労働基準法施行規則19条では、月給制の場合、1年間における1か月平均の所定労働時間数で割る、とされています。
出し方
(365日 − 年間休日) × 1日の所定労働時間 ÷ 12
たとえば年間休日120日、1日8時間なら
(365 − 120) × 8 ÷ 12 = 245 × 8 ÷ 12 = 約163.3時間
年間休日の日数は、就業規則か年間カレンダーに載っています。工場だとカレンダーが配られていることが多いので、そこから数えられます。
⚠️ ここ、大きい数字で割るほど単価は下がります。 つまり、所定労働時間の設定が実態より長いと、単価も下がる。念のため、自分の会社の数字で確認してみてください。
ズレていたときの、最初の一言
計算してみて「あれ、違うかも」となったとき。
いきなり「間違ってますよね」と言いに行かないほうがいいです。 相手が身構えると、話が止まります。
おすすめはこれです。
「残業代の単価って、何を基礎に計算されていますか」
この聞き方には、いいところが3つあります。
- 責めていない(間違いを指摘するのではなく、計算方法を尋ねているだけ)
- 相手が答えられる質問になっている(総務の人は、計算の仕組みなら説明できる)
- 答えが返ってきた時点で、自分で照合できる(「基本給だけです」と返ってくれば、そこが論点だと分かる)
もし「基本給を所定労働時間で割っています」という答えだったら、こう続けられます。
「資格手当とかも基礎に入るって見たんですが、あれってどういう扱いになってますか」
あくまで確認です。この段階では、それで十分だと思います。
こういう「聞き方」の話は、こちらにも書きました。言葉の意味ではなく中身を尋ねる、という同じ考え方です。
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工場の用語が分からない|聞く言葉と、後で調べる言葉の分け方
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明日、ひとつだけできること
明日、これだけ
給与明細を1枚出して、7つに当たる手当に印をつけてみてください。
それだけです。計算までしなくていいです。
印をつけると、たいていこうなります。
「あれ、印がついてない手当のほうが多いな」
そこが、あなたの残業代の基礎に入っているはずの部分です。気づくところまでで、今日は十分だと思います。
それでも、確かめようがない職場なら
念のため書いておきます。
- 明細に内訳が出ない(手当がまとめられていて中身が分からない)
- 聞いても「そういう決まりだから」で終わる
- 何度確認しても、計算の説明が返ってこない
こうなると、あなたの側でできることは限界があります。 それは調べ方の問題ではなく、説明する体制がないという話です。
今すぐ辞めろという意味ではまったくないです。ただ、給与の中身をちゃんと説明してくれる職場は普通に存在するということは、知っておいていいと思います。
※今すぐ動かなくても大丈夫です。「これが当たり前じゃないんだな」と分かるだけで、少し違ってきます。
よくある質問
Q. 固定残業代(みなし残業)がある場合はどうなりますか?
固定残業代がある場合は、何時間分としていくら払われているかが決まっているはずなので、まずそこを確認してください。その時間を超えた分は、別に支払われる必要があります。 ただし、固定残業代は制度の作り方によって扱いが変わるところなので、ここでは断定できません。明細と就業規則を見て分からなければ、労働基準監督署の相談窓口で聞くのが早いです。
Q. 役職がついているので、残業代は出ないと言われました。
役職がついていることと、残業代が出ないことは、自動的にはつながりません。 労働基準法上の「管理監督者」に当たるかどうかは、役職名ではなく実態(権限や待遇など)で判断されます。ここは個別性が高いので、この記事では断定しません。気になる場合は窓口へどうぞ。※手取りを増やす順番にも、昇進で手取りが下がることがある話を書いています。
Q. 有給を取った月は、計算が変わりますか?
有給を取った日は労働時間ではないので、その日の分は残業時間になりません。ただし有給を取ったこと自体で、その月の単価が下がるわけではありません。 有給そのものについては有給が言い出せないときに書きました。
Q. どこまでさかのぼれますか?
賃金の請求権の時効は、労働基準法115条で5年とされていますが、附則143条3項によって当分の間は3年として運用されています。ただ、この記事はさかのぼって請求する話ではありません。 まずは今月の分が合っているかを見るところからで十分だと思います。
Q. 時給制のパート・アルバイトでも同じですか?
時間で決められた賃金の場合は、その金額がそのまま単価になります(労働基準法施行規則19条1号)。割増率の考え方は同じです。
まとめ
この記事のまとめ
・残業代のズレは、時間数より「1時間あたりの単価」で起きやすい
・明細には単価が載っていないから、モヤモヤだけが残る
・★単価は基本給だけでは出ない。 厚労省も「各種手当を含んだ合計」で割ると書いている
・★基礎から外せるのは7つだけ(家族・通勤・別居・子女教育・住宅・臨時・1か月超ごと)。これは制限的な列挙
・資格手当・作業手当・精皆勤手当・交替手当・役職手当は、原則として基礎に入る
・7つに名前があっても、一律定額なら外せないことがある(名称ではなく実質で判断)
・割増率は時間外25%/60時間超50%/法定休日35%/深夜25%。60時間超の猶予は2023年4月に廃止
・検算は3ステップ(7つを引く → 1か月平均所定労働時間で割る → 割増率を掛けて明細と比べる)
・ズレていたら、まず 「単価って何を基礎に計算されていますか」 と聞く
最後にひとつだけ。
確かめることは、疑うことではないです。
自分が働いた時間がいくらになっているのかを知るのは、後ろめたいことでも、生意気なことでもありません。ずっとモヤモヤしたまま働くより、はっきりさせたほうが、たぶん気持ちよく働けます。
明日、明細を1枚出すところから始めてみてください。


この記事の出典
・労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条・第115条・附則第143条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
・労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第19条・第21条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023
・愛知労働局「割増賃金の基礎となる賃金について」
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/var/rev0/0119/6635/warimashikiso.pdf
・厚生労働省「確かめよう労働条件」時間外・休日労働と割増賃金
https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/study/roudousya_jikangai.html
※情報は2026年8月22日時点のものです。固定残業代・管理監督者など個別の判断が必要なものは、所轄の労働基準監督署(総合労働相談コーナー)にご確認ください。