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冬の工場が寒い。暖房をつけてもらえる線は、何度からなのか。
先に答えを書きます。「10度」という数字は、実在します。
事業者は、室の気温が十度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
——事務所衛生基準規則 第4条第1項
「努める」ではありません。「講じなければならない」。義務の書き方です。
ただし、この条文が掛かるのは事務所の側です。
あなたが見つけた10度は、間違いではありません。あなたの作業場の話ではなかった、というだけです。
そして——作業場の側がゼロなのではありません。 持ち帰れるものが、3つあります。
- 作業場の側にも「十度」が1か所ある(安衛則601条2項。ただし暖房の義務ではなく、気流の話)
- 冷凍庫や冷蔵庫の中に入って作業する人は、扱いが変わる(安衛則587条12号 → 607条。会社に測定と3年保存が生じる)
- 「作業者の付近のみを局所的に」と書いた国の文書が、1つだけある(基発第392号。義務ではないが、読者と同じ単位で書かれている)
この3つを、後半で1つずつ開きます。
寒い、と言う前に、先に来るのは手の話ですよね。
私も、指先の感覚がなくなって、繊細な作業ができませんでした。
冷凍庫の中でピッキングをしている人の投稿にも「手が特に辛いです」とありました。冷凍倉庫の質問についた回答には、こうありました。
手袋を二重にしても手がかじかんで俊敏性がなくなるだけです。
寒いのがつらい、より先に、持っている物が思うように扱えない。これが先に来ます。
そして、事務所のほうを思い出す。
「事務所は、夏は、涼しい。冬は、温かい。羨ましい。でもしょうがないっと思っていた。」
これが、私です。差は体で分かっていました。でも、そこに本当に線が引かれていたことは、知らないまま働いていました。


この記事で確かめるのは、2つだけです。
- どの決まりが、どこに掛かっているのか
- 自分の立ち位置の寒さは、何かに扱われているのか
そして、この記事で答えが出ないことも、先に書いておきます。
この記事は、あなたの作業場を何度にしてもらえるかには答えられません。 作業場の側に「何度なら暖房」という数値が、見つからないからです。
「寒いから辞めたい」まで来ている人にも、辞める以外の手が1つだけあります。最後に書きます。
「10度で暖房」は実在します。ただし、その条文は事務所に掛かっています
結論から、もう一度。10度の線は、事務所衛生基準規則(以下「事務所則」)という別の規則の中にあります。
工場の作業場に掛かるのは、労働安全衛生規則(安衛則)の第三編です。同じ「衛生基準」でも、事務所と作業場で、別々のルールが割り当てられています。
条文は、こう書いてあります
事業者は、室の気温が十度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
——事務所衛生基準規則 第4条第1項
読むところは3つです。
- 主体は「事業者」。 読者本人に掛かる規制ではありません。やるのは会社の側です
- 強さは「講じなければならない」。 努力義務ではなく、義務の書き方です
- 「十度以下の場合は」。 10度ちょうども入ります
ここが、検索して出てくる記事といちばん食い違うところです。この条文を「努める」と書いているページ、「室温を10度以下にしてはならない」と書いているページが実際にあります。条文に、その書き方はありません。 10度以下になったときに温度調節の措置をとる義務、です。
なぜ、作業場には掛からないのか
掛からない理由は、はっきり条文に書いてあります。
事務所(これに附属する食堂及び炊事場を除く。)における衛生基準については、労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第三編の規定は、適用しない。
——事務所衛生基準規則 第1条第2項
事務所には、安衛則の第三編(576条〜634条)が適用されません。代わりに事務所則が掛かります。つまり法令の側が、事務所と作業場に別々のルールを割り当てているということです。
そして、どちらに入るかを決めているのは、建物の種類ではありません。
この省令は、事務所(建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二条第一号に掲げる建築物又はその一部で、事務作業(タイプライターその他の事務用機器を使用して行う作業を含む。)に従事する労働者が主として使用するものをいう。)について、適用する。
——事務所衛生基準規則 第1条第1項
ここで引かれている建築基準法2条1号の「建築物」の定義は、「土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む。)」です。工場の建屋も、ふつうに入る広さの定義です。
切り分けているのは、そのあとの部分です。事務作業に従事する労働者が主として使用するものかどうか。 ここで分かれます。
ここは、ぜんぶ条文の話です。差をつけているのは、条文の掛かり方です。
事務所には、もう1つ数字があります
18度と28度、という数字を見たことがあるかもしれません。それも事務所則です。ただし強さが違います。
事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十八度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。
——事務所衛生基準規則 第5条第3項
こちらは「努めなければならない」=努力義務です。4条1項(義務)と混ぜて読まないでください。
しかも条件つきです。「空気調和設備を設けている場合は」。空気調和設備とは、5条1項の括弧の中で「空気を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給することができる設備をいう」と定義されています。
なぜ18度なのか。施行通達に理由が書かれています。
世界保健機関(World Health Organization, WHO)が冬期の高齢者における血圧上昇に対する影響等を考慮してガイドライン(※)において室内温度の低温側の基準について18℃以上を勧告したこと
——「事務所衛生基準規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和4年3月1日 基発0301第1号)第1-1
同じ通達には、こうも書かれています。
なお、空気調和設備を設けている場合以外であっても、冷暖房器具を使用することなどにより事務所における室の気温は18度以上28度以下になるようにすることが望ましいこと。
エアコンが無くてストーブだけの事務所についても、18〜28度が「望ましい」と国が書いているということです。ただし「望ましい」は義務でも努力義務でもありません。決まっている、とは書けません。
この節でやること:自分が働いている場所について、事務所則の側なのか安衛則第三編の側なのかを、先に決めてしまう。次の節で、その見分け方を書きます。
あなたが立っている場所は、どちら側ですか
結論から。同じ建物の中でも、線は分かれます。 決め手は建物の種類ではなく、そこを事務作業に従事する労働者が主として使用するものかどうかです。
1条1項は「建築物又はその一部」と書いています。建物まるごとでなくてよい、ということです。同じ工場の敷地の中の一区画でも、事務所になりえます。
ただし、仕切っただけでは事務所になりません。 厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」が、古い通達の一文を引いています。
また、昭和46年8月23日付け基発第597号において、「工場現場の一部において、ついたて等を設けて事務作業を行っているものは、本規則による事務所に該当しないこと。」と解釈されています。
——厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード「事務所衛生基準規則」
この一文が除いているのは、ついたて等を設けて事務作業を行っているものだけです。「工場の中の事務室は全部対象外」とは書いていません。独立した部屋なら、入りうる、ということです。
実際、「職場がとても寒いです」と書いていた投稿のひとつは、工場の敷地内のプレハブで事務の仕事をしている人でした。「暖房をつけてもあまり効かず隙間風があります」とあります。この人は、10度の線が自分に掛かりうる側にいます。
この節でやること:自分の場所が、ついたてで区切っただけなのか、独立した部屋なのか。そして、そこを主に使っているのは事務作業の人なのか、作業する人なのか。この2つを、頭の中で当ててみる。
ここから先は、作業場の側の話に戻ります。
作業場の側がゼロなのではありません——持ち帰れるものが3つあります
結論から。あなたの作業場が何度なら暖房、という数値は見つかりませんでした。でも、ゼロでもありません。
労働安全衛生法、同施行令、安衛則、事務所則、労働基準法、女性労働基準規則——この6つの法令の本則を全部機械検索しても、工場の作業場について「何度以下なら暖房」という数値を定めた条文は見つかりませんでした。数値が書かれているのは、事務所則4条(10度以下)と5条3項(18度以上28度以下)、そして安衛則601条2項(10度以下のときの気流)だけです。
※条例・告示・通達は別枠です。「日本の法令全体に無い」とは書きません。
作業場の側にある、ただ1つの十度
事業者は、前条の屋内作業場の気温が十度以下であるときは、換気に際し、労働者を毎秒一メートル以上の気流にさらしてはならない。
——労働安全衛生規則 第601条第2項
これは作業場の側の条文です。 しかも強さは「してはならない」=禁止です。
対象も特別ではありません。「前条の屋内作業場」とは、600条の「労働者を常時就業させる屋内作業場」です。冷凍庫のような特別な場所に限られていません。ふつうの屋内作業場です。
「暖房をつけてもあまり効かず隙間風があります」——冒頭で紹介した投稿の言葉です。法令が10度以下のときの風に線を引いているのは、作業者本人の感覚とかみ合う、たぶん唯一の数字です。
ただし、言い過ぎないための線が3つあります。
- これは「換気に際し」の話です。 すきま風そのものを禁じた条文ではありません。この条文を根拠に、すきま風そのものがだめだと言うことはできません
- 毎秒1メートルを測ってみましょう、とも言いません。 現場で簡単に測れるものではないからです
- 暖房の義務を作る条文ではありません。 10度以下になったら暖房しなければならない、とは書かれていません
606条には「寒冷」が入っています。ただし数字が1つもありません
安衛則606条は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについて、温度や湿度を調節する措置を事業者に義務づけた条文です。「寒冷」という語は、ちゃんと入っています。
ただし、この条文には数字が1つもありません。 条文の全文と中身は、暑さ側の記事で引いているので、そちらに置いておきます。
ここで、暑さの記事と読み比べる人のために1つ書いておきます。
暑さにも寒さにも、あなたの作業場が何度なら、という数字はありません。寒さだけ、事務所の側に10度という数字があります。作業場の側にも十度は出てきますが、出てくるのは、10度以下のときに毎秒1メートル以上の気流にさらしてはならない、という形で、暖房の義務ではありません。
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工場の暑さを我慢していませんか|熱中症は「気合い」ではなく決まりごとの話です
室温40度の現場で「暑いので休ませてください」が言えない。でもそれは気合いの話ではなく、決まりごとの話です。2025年6月から義務になったことまで、厚労省の資料で確かめます。
続きを見る
休憩の設備は、寒い側も条文に入っています
事業者は、著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場、有害なガス、蒸気又は粉じんを発散する作業場その他有害な作業場においては、作業場外に休憩の設備を設けなければならない。ただし、坑内等特殊な作業場でこれによることができないやむを得ない事由があるときは、この限りでない。
——労働安全衛生規則 第614条
暑熱だけではありません。「寒冷」も、ここに書かれています。
そのうえで、私のことを1つ書きます。
休憩室は、室内も、外よりマシ程度でした。暖房器具は、稼働していませんでした。
理由は知りません。聞いていないので書きません。「614条違反だ」とも書きません。 この条文が掛かるのは「著しく暑熱、寒冷又は多湿の作業場」で、自分の職場がそれに当たるかどうかを、この記事で判定することはできないからです。
事実だけ、並べて置いておきます。条文には「寒冷」が入っていた。私の休憩室の暖房器具は、稼働していなかった。
この節でやること:3つのうち、自分に当たりそうなものに印をつける。601条2項の気流か、614条の休憩設備か、それとも次の節の冷凍庫側か。
冷凍庫や冷蔵庫の中に入って作業する人は、扱いが変わります
結論から。この記事の中で、会社に測る義務がはっきり生じるのは、ここだけです。
どこに名指しされているか
出発点は法律です。
事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
——労働安全衛生法 第65条第1項
その「政令で定めるもの」のひとつが、これです。
暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、厚生労働省令で定めるもの
——労働安全衛生法施行令 第21条第2号
そして「厚生労働省令で定めるもの」が、安衛則587条です。「令第二十一条第二号の厚生労働省令で定める暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場は、次のとおりとする。」として16号まで並びます。
このうち、寒さの側で名指しされているのは2つだけです。
多量の液体空気、ドライアイス等を取り扱う業務を行なう屋内作業場
——労働安全衛生規則 第587条第11号
冷蔵庫、製氷庫、貯氷庫又は冷凍庫等で、労働者がその内部で作業を行なうもの
——労働安全衛生規則 第587条第12号
ほかの号は、熱を出す側(溶鉱炉や加熱金属など)と、湿気の側(染色槽やめっきなど)と、大臣の指定です。
587条は16号まで並びます。ですが、実体は、寒さの側は11号と12号の2つです。 16と思って読み始めると、当たらずに終わります。
当たると、会社に何が生じるか
事業者は、第五百八十七条に規定する暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場について、半月以内ごとに一回、定期に、当該屋内作業場における気温、湿度及びふく射熱(ふく射熱については、同条第一号から第八号までの屋内作業場に限る。)を測定しなければならない。
——労働安全衛生規則 第607条第1項
半月以内ごとに一回、定期に。 これが会社の義務になります。
括弧の中を見てください。ふく射熱を測るのは1号から8号までに限られています。つまり12号(冷凍庫等の内部)で測るのは、気温と湿度の2つです。
測ったあとも続きがあります。607条2項が591条2項を準用し、591条2項が590条2項を準用しています。その590条2項が、実体です。
事業者は、前項の規定による測定を行つたときは、その都度、次の事項を記録して、これを三年間保存しなければならない。
——労働安全衛生規則 第590条第2項
記録する項目は7つ(測定日時/測定方法/測定箇所/測定条件/測定結果/測定を実施した者の氏名/測定結果に基づいて改善措置を講じたときは、その措置の概要)。それを3年間保存です。
ここでは判定しないこと
12号の決め手は、条文の最後の部分です。「その内部で作業を行なうもの」。
冷凍庫や冷蔵庫の中に入って作業をするものが、この号に当たります。
食品工場で働き始めた人の投稿に「冷凍物を触るので、本当に寒いです。」とありました。これが12号に当たるかは、この文言では決まりません。 だから、ここでは判定しません。「食品工場で働く人は12号に当たる」とは書けない、ということです。
自分の作業が内部作業なのかどうかは、11号と12号の文言を自分で読んで当ててみるのが、いちばん早いと思います。
本人にも掛かる条が、1つあります
安衛則585条1項は、「多量の低温物体を取り扱う場所又は著しく寒冷な場所」への立入りを禁止して表示することを、事業者に義務づけています。そして同条2項は、禁止された場所に「みだりに立ち入つてはならない」と、労働者の側にも書いています。
ここだけは、会社ではなく自分に掛かる条文です。
この節でやること:自分の作業が「内部で作業を行なうもの」なのかを、11号・12号の文言に当てて確かめる。当たるなら、半月以内ごとに一回の測定と、3年保存が会社の義務になります。
「作業者の付近のみを局所的に」と書いた国の文書が、1つだけあります
結論から。工場全体ではなく、"作業者の付近"という単位で書かれた一行が、国の文書にあります。
ここが、この記事の中心です。
指針の側
労働安全衛生法71条の3にもとづいて、厚生労働大臣が出している指針があります。「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(平成4年7月1日 労働省告示第59号)。
その中に、温熱条件の項目があります。
屋内作業場においては、作業の態様、季節等に応じて温度、湿度等の温熱条件を適切な状態に保つこと。また、屋外作業場については、夏季及び冬季における外気温等の影響を緩和するための措置を講ずることが望ましいこと。
——指針 第2-1-(2) 温熱条件
同じ指針の冒頭には、こう書かれています。
空気環境、温熱条件等の作業環境が空気の汚れ、暑さ・寒さや不十分な照度等により不適切な状態にある場合には、労働者の疲労やストレスを高めることから
——指針 第1-1 作業環境の管理
暑さと寒さは、並べて書かれています。 寒さだけ軽く扱われているわけではありません。
施行通達の側——ここに、あなたと同じ単位で書かれた一行があります
指針の出し方を説明した通達が、同じ日に出ています(平成4年7月1日 基発第392号)。そこに、温熱条件の説明が並んでいます。
まず、温熱条件とは何かから。
温熱条件とは、労働者をとりまく空気の温度、湿度、輻射熱及び気流等の要素が総合されたものであること。
次に、「適切な状態」とは何か。
「適切な状態」とは、作業場所について暑い、寒い、蒸し暑いといった不快を感じない状態をいうこと。
そのうえで、こう続きます。
体感温度に個人差等があるため、平均的に設定された温熱条件下では、特定の労働者の不快感をなくすことができない場合には、局所的な冷房又は暖房等によって、個人差を補うこと。
そして、これです。
作業者が点在している工場において、工場全体に冷暖房を入れることが不合理な場合には、作業者の付近のみを局所的に冷房又は暖房すること。
——基発第392号 Ⅱ 第二 1(2)③
冷凍庫の中の作業も、別のところで名指しされています。
工場等における炉前作業、冷凍庫内の作業、多量の蒸気を使用する作業、鋲打ちの作業等については、温熱条件、音環境等に起因する負担を軽減するため、工程の自動化、操作の遠隔化、防熱壁、遮音壁等の設置、局所的な冷暖房設備の設置等の措置を講ずること。
——基発第392号 Ⅱ 第二 2(3)①
休憩する場所についても、1行あります。
作業の性質により温熱条件を管理することが困難な場合には、温熱条件が適切な状態に管理されている休憩室等を確保すること。
私の話を、ここに1つだけ並べておきます。
暖房は、現場の働くすぐそばには、ありませんでした。
建屋のどこかにあったかどうかは、ここでは書きません。書けるのは、働くすぐそばには無かったところまでです。
工場全体ではなく、作業者の付近。 この単位で書いているのは、私が見つけた範囲では、この通達だけでした。
ただし、これは義務ではありません
正直に書きます。この指針の根っこにある労働安全衛生法71条の2は、努力義務です。 指針は、指針です。
じゃあ意味ないじゃん、と思いますよね。わかります。会社に守らせるための材料としては、たしかに弱いです。
でも、使いどころが1つあります。
あなたが寒いのは、室の平均ではなく、自分が立っている場所です。法令が見ているのは「室」の気温で、あなたが寒いのは自分の立ち位置。このズレのほうが本当だと、国の文書の側が書いている。それを確かめる材料になります。
つまり、自分の立ち位置という単位が、国の文書の側にもあったということです。それだけです。それだけですが、「しょうがない」と思っていたことに、国の文書が一行だけ触れていた、ということにはなります。
なお、同じ指針の第3-2は、労働者の意見が反映されるようにするための措置も、事業者の側の仕事として書いています。意見を通す仕組みを作るのは、読者の仕事ではありません。
条文そのもの(71条の2)は、別の記事で全文を引いています。努力義務の読み方を知りたい人は、そちらへ。
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「頭がおかしくなりそう」は、根性の話ではありません ― 単調な作業がつらいとき
同じ作業の繰り返しで「頭がおかしくなりそう」。つらさの正体は、耐えられないことではなく「積み上がっている実感がないこと」かもしれません。作業方法の改善も、疲労を回復する施設も、法律は会社側の努力義務として書いています。
続きを見る
「もっと寒い人がいる」と言い聞かせなくていい理由
寒さの相談につく回答に、こういうものがありました。
外で働く人に比べればマシだと自分に言い聞かせています
これを書いた人を、否定したくはありません。そう言い聞かせて立っている人は、実際にいます。それはその人の生き方です。
そのうえで、言い聞かせなくてもいい理由を、1つだけ置いておきます。同じ指針に、こう書かれています。
労働者が作業をするに当たっての温度、照明等の職場の環境条件についての感じ方や作業から受ける心身の負担についての感じ方等には、その労働者の年齢等による差を始めとして個人差があることから、そのような個人差を考慮して必要な措置を講ずること。
——指針 第3-3 個人差への配慮
個人差があることは、国の文書の側に先に書かれています。 誰かと比べて、自分の寒さを割り引く必要はありません。
この節でやること:「作業者の付近」という言葉を覚えて帰る。自分の寒さの単位は、室の平均ではなく、自分の立ち位置です。
寒さの側には、暑さの側にある数字がありません
結論から。これはあなたの職場の個性ではなく、国の資料の側にも先にある偏りです。
厚労省のページ1枚で分かること
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、「安全衛生キーワード」という用語解説が100項目あまりあります。
「熱中症」はあります。「寒冷」「低温」「凍傷」「低体温症」は、どれもありません。(2026年10月7日に全項目を取って確かめました)
そのうえで、同じサイトの「快適職場」の解説には、こう書かれています。
その生活の場が暑すぎたり、寒すぎたり、汚れていたり、不自然な姿勢等の身体に負担がかかる作業であったり、人間関係が良くない場合には、その人にとって不幸であるだけでなく、生産性の面からも能率の低下をきたします。
——厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード「快適職場」
「寒すぎたり」と「能率の低下」が、同じ文の中に並んでいます。
指先の感覚がなくなって細かい作業ができないことを、国のページは本人の心構えの問題としては書いていません。寒さと、能率を並べて書いています。
統計について、書けること
ここは正直に書きます。
暑さの側には、国が毎年出している死傷災害の数字があります。寒さの側で、同じように集計された数字は、探した範囲では見つけられませんでした。
「寒さで倒れる人はいない」という意味ではありません。「寒さは統計に出ない」という意味でもありません。見つけられなかった、というだけです。
夏は測っていました。冬は、分かりません
私の職場のことを、1つ書きます。
夏は測っていました。冬は、測っていたかどうか分かりません。
「測っていませんでした」とは書けません。分からないからです。
ただ、この「分からない」という状態そのものが、この記事の話です。
夏は測る。冬は分からない。これは私の職場の個性ではなく、法令と行政の資料の側に先にある形と、同じ向きを向いています。607条の測定義務が掛かるのは587条に当たる作業場で、寒さの側は11号と12号だけ。用語解説に熱中症はあって、寒冷は無い。
自分の現場が名指しされていないという感覚については、別の記事で同じ構造を書きました。
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工場で座ったらダメ?|座りたいのは、やる気の問題じゃない。立ち作業のいすは"会社が備えるもの"と法令に書かれています(条件つき)
工場の立ち作業で足が限界なのに、「座りたい」と言えない。そんなあなたへ。立ち作業のいすは、安衛則615条で条件つきで会社が備えるものとされています。やる気とは別のものさしと、明日ひとりでできる1つを、現役の工場ワーカーが整理しました。
続きを見る
この節でやること:自分の職場で、冬の室温を測っている様子があるかどうかを思い出してみる。思い出せなくても、それが普通です。
寒さしのぎに手袋を重ねている人へ
結論から。足りなかったのは、あなたの着方ではありません。
私も、同じ対策をしていました
手がかじかんで作業がしにくくなったことがあります。手袋を暖かい物に変えたり、2重にしたりしていました。
ヒートテックを支給されたことはあります。そのうえで、自分でも暖かい服を買いました。
だから、「厚着しましょう」と書く側には立てません。自分がそれをやってきた側だからです。
そして、知恵袋の投稿を読んでいると、全員が同じところまで来ています。
- 「長袖を重ね着すると腕が動かし難くなる」
- 「ホッカイロ2枚はっても寒くて仕方がありません」
- 「あまり厚着もできず、これ以上対策法がわからない」
- 「手袋を二重にしても手がかじかんで俊敏性がなくなるだけです。」
この記事は、あなたが試し終わった場所から始まっています。
足りなかったのは着方ではなく、寒さを測る単位です。 服は体に着けるもので、法令が見ているのは室の気温。あなたが寒いのは、自分の立っている場所。ここがずれています。
作業によっては、手袋そのものが禁止されている場合があります
これだけは、安全の話なので書いておきます。
回転する刃物に手が巻き込まれるおそれがある作業では、手袋の使用が法令で禁止されます(安衛則111条)。しかもこの条文は、1項が事業者に、2項が労働者本人にも掛かります。
この条文は第二編(安全基準)にあります。事務所則1条2項が外しているのは第三編なので、111条は外れません。事務所でも作業場でも掛かります。
条文の全文と、どの機械が対象になるかは、別の記事に書いてあります。手袋を重ねる前に、自分の作業がそちら側でないかを一度だけ確かめてください。
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手袋をしてはいけない作業がある|素手が怖いときにできること
手袋を外せと言われても、素手は怖い。法令が禁じているのは手袋そのものではなく、巻き込まれるおそれのある場面のほうでした。
続きを見る
防寒衣・防寒手袋は、本来は会社が備えるものです
安衛則593条1項は、「著しく暑熱又は寒冷な場所における業務、多量の高熱物体、低温物体又は有害物を取り扱う業務」などについて、「保護衣、保護眼鏡、呼吸用保護具等適切な保護具を備えなければならない。」と事業者に義務づけています。
だから、この記事では防寒衣・防寒手袋のリンクは置きません。 会社が備えるものを、読者に買わせる形にはしたくないからです。
実際、「−60度対応ゴム手」を自分で買おうとしている投稿もありました。買うこと自体を止めるつもりはありません。ただ、条文の側では、会社が備えるものとして書かれています。
この節でやること:手袋を重ねているなら、その作業が111条側でないかを一度だけ確かめる。これは今日できます。
明日できること——自分が立っている場所の気温を、一度だけ測って、日付と時刻をつけて残す
明日できること
明日、自分が立っている場所の気温を一度だけ測って、日付と時刻をつけてスマホのメモに残す。
それだけで、あなたの立ち位置の寒さは、はじめて数字として残ります。
なぜ、これに意味があるのか。
607条の測定義務が掛かるのは、587条11号・12号に当たる屋内作業場です。そこに当たるときは、半月以内ごとに一回の測定と3年保存が会社の義務になります。当たらないときは、会社に測る義務がありません。
つまり、ふつうに寒い作業場については、誰も測っていない状態が続いているということです。
そして、私もやっていませんでした。だから「やってみせた」話としては書けません。
やらなくてもいいです。責められることでもありません。ただ、できることとして1つだけあるので、置いておきます。
書き足すのは、これだけで足ります。
- 日付
- 時刻
- 場所(自分がいつも立っているところ、と分かる程度で足ります)
- 温度
休憩時間に言った「寒いですね」は、作業が始まると消えます。
測った数字は、消えません。それを誰かに見せるかどうかは、あとで決めればいいことです。
もう1つ:自分の作業場が587条11号・12号に当たるかを、自分で読んで確かめる
読むだけでできます。前の節で引いた2つの号の文言に、自分の作業を当ててみるだけです。
当たっていれば、半月以内ごとに一回の測定(気温と湿度)と、記録の3年保存が会社の義務になります。
もう1つ:自分が立っている場所が、事務所則の「事務所」側かどうかを文言で確かめる
これも読むだけです。見分け方は前のほうの節に書きました。ついたてで区切っただけなら事務所に当たらないと解釈されている、というところまでが、いま言える線です。
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向く人:自分の立ち位置の数字が、1つも手元に無い人。
向かない人:すでに職場に温度計が貼ってあって、自分の作業場所の数字が見られる人。その場合は、買う必要はありません。 日付と時刻をつけて書き写すだけで足ります。
よくある質問
Q1. うちの作業場は10度以下です。暖房してもらえますか。
事務所衛生基準規則は、事務所に掛かる条文です。作業場の側に「何度なら暖房」という数値は、6つの法令の本則を機械検索しても見つかりませんでした。この記事では、暖房してもらえるとは書けません。 監督署に言えば事務所と同じにしてもらえる、とも書けません。作業場の側に、その数値の義務が無いからです。
Q2. 隙間風について、法令は何か書いていますか。
安衛則601条2項は「換気に際し」の話で、すきま風を禁じた条文ではありません。書けるのは、10度以下のときに労働者を毎秒1メートル以上の気流にさらしてはならない、というところまでです。また、毎秒1メートルを自分で測りましょう、とも言いません。
Q3. 防寒の服を支給されたら、会社はそれでいいことになりますか。
事務所則4条には、衣類を着せたら例外になる場面が1つあります。ただしそれは2項(冷房)の但し書きで、しかも電子計算機等を設置する室に限られています。 1項(10度以下→暖房等の措置)には、但し書きが1つもありません。
ここから先は行政解釈が必要なところなので、この記事では書きません。「服の支給は暖房の代わりにならないと法令に書いてある」とも書きません。条文はこう書いてある、というところまでです。
Q4. 食品工場で冷凍物を触ります。587条12号に当たりますか。
決め手は「その内部で作業を行なうもの」です。ここでは判定できません。 冷凍庫や冷蔵庫の中に入って作業をするものが、この号に当たります。自分の作業がそれに当たるかは、11号・12号の文言を自分で読んで当ててみてください。
Q5. 事務所則4条に違反したら、罰則がありますか。
この記事では書けません。 省令違反がどの罰条に当たるかを、一次資料で確かめられなかったからです。
書けるのはここまでです。労働安全衛生法23条には「保温」という語があり、作業場について事業者の義務として書かれています。そして同法119条1号の列には「第二十条から第二十五条まで」とあり、23条が含まれています。ただし、この2つをつなげて、だから事務所則4条のほうにも罰則がある、と言うことはできていません。 また、あなたの作業場が寒いことが23条の義務に反するかどうかも、この記事では判定できません。
Q6. 17度と18度、どちらが今の数字ですか。
5条3項は18度です。 令和4年厚生労働省令第29号(公布2022年3月1日・施行2022年4月1日)で、17度から18度に変わりました。
ただし、現行の事務所則にも「十七度」が1か所だけ残っています。 7条1項のただし書き(作業環境測定の回数を緩められる要件)です。同じ規則の中に17度と18度が同居しているので、どちらも見かけること自体は不思議ではありません。
⚠️ 寒さのあとに体のどこかに続く不調があるときは、この記事では判断できません。医療機関で診てもらってください。職場に産業医や健康相談の窓口があれば、そこに話すのも方法のひとつです。
まとめ——無いのは法令の線ではなく、あなたの側の数字でした
確かめたことを、並べ直します。
- 10度は実在して、しかも義務の書き方だった(事務所則4条1項「講じなければならない」)
- 掛かるのは事務所の側だった(事務所則1条2項。差をつけているのは条文の掛かり方です)
- 作業場の側も、ゼロではなかった(安衛則601条2項の十度/606条の「寒冷」/冷凍庫等の内部作業なら、半月以内ごとの測定と3年保存)
- 自分の立ち位置という単位で書かれた一行が、国の文書にあった(基発第392号「作業者が点在している工場において、工場全体に冷暖房を入れることが不合理な場合には、作業者の付近のみを局所的に冷房又は暖房すること。」)
そして、最後に1つ。
寒さが"寒さ"として言葉になるのは、手が止まっているあいだだけでした。だから、あなたの立ち位置が何度だったかは、どこにも残っていません。
私の職場でも、そうでした。
「休憩時間に寒い。という言葉は、よく聞きました。仕事になれば、我慢しました。」
言えなかったのではありません。言葉は出ていました。よく聞きました。それが、作業が始まると消えていました。
寒さは、作業が始まると「指先の感覚がなくなる」に化けます。そうなると、もう寒さとしては誰にも言われません。だから記録にも残りません。
「寒いから辞めたい」まで来ている人へ。辞める以外の手が、1つだけあります。 測って、日付と時刻をつけて残すことです。辞めることを否定もしません。ただ、どちらを選ぶにしても、自分の立ち位置の数字が1つ手元にあるほうが、たぶん楽です。
そして、「しょうがない」の行き先は、ずらしていいと思います。 自分が弱いからではなく、自分の立ち位置の寒さが、数字として一度も残っていないほうへ。
無いのは法令の線ではありません。あなたの側の数字です。
ここから何を持って帰るかは、あなたが決めてください。
この記事の出典
・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第22条・第23条・第65条・第71条の2・第71条の3・第119条・第122条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
・労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第21条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318
・労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第111条・第585条・第587条・第590条・第591条・第593条・第600条・第601条・第606条・第607条・第614条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032
・事務所衛生基準規則(昭和47年労働省令第43号)第1条・第4条・第5条・第7条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000043
・建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
・厚生労働省「事務所衛生基準規則の一部を改正する省令の施行等について」(令和4年3月1日 基発0301第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000904298.pdf
・「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(平成4年7月1日 労働省告示第59号/改正 平成9年9月25日 労働省告示第104号)|厚生労働省 法令等データベース
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74110500&dataType=0&pageNo=1
・厚生労働省「『事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針』について」(平成4年7月1日 基発第392号)|厚生労働省 法令等データベース
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2144&dataType=1&pageNo=1
・厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード「事務所衛生基準規則」(昭和46年8月23日 基発第597号の解釈を引用)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo70_1.html
・厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード「快適職場」
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo11_1.html
・厚生労働省「職場のあんぜんサイト」安全衛生キーワード(索引・全項目)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html
※法令・告示・通達は改正されることがあります。読んだ時点の最新のものを、厚生労働省やe-Gov法令検索でご確認ください。
※リンクを付した11件のURLは、いずれも2026年10月7日に閲覧して確認したものです。