心の話

「頭がおかしくなりそう」は、根性の話ではありません ― 単調な作業がつらいとき

同じ動作を、何百回。時計を見ても、針が進んでいない。「あと、まだ4時間ある」。気づいたら手だけが動いていて、意識はどこかへ行っている。

あれ、根性の話じゃないです。

ただ、「頑張れ」でも「気にするな」でもない話をしたいので、先に結論を書いておきます。

そして、たぶんですが——いちばんしんどいのは「きつい」ことそのものじゃない気がします。

この記事の立ち位置


この記事では、法律と指針の条文を何本か引きます。ただし、「法律で決まってるから会社に言え」という記事ではありません。

言いにくいことには理由があるので、そこも含めて書きます。

つらいのは「きつい」からじゃなくて、「このままでいいのか」だったりします

私も同じ作業をずっと続けていた時期があります。

正直に書くと、しんどかったことは3つとも当てはまります。

  • 時間が進まない
  • 意識がふっと飛ぶ
  • 自分が機械の一部みたいに思える

でも、この3つより深いところに、もうひとつありました。

いちばん深いところにあったもの


同じことの繰り返しで、成長していない自分がいる。このままでいいのか。

そういう罪悪感です。

つらさの正体って、たぶんこっちなんですよね。「耐えられない」んじゃなくて、「積み上がっている実感がない」

時間は過ぎていく。作業はこなせるようになった。でも、それが何かになっている気がしない。

考えてみると、これは当たり前かもしれません。単調な作業は、上達しても上達したことが見えにくいんですよね。

覚える手順が増えるわけでもない。速くなっても、ラインの速さは変わらない。だから「先月の自分より、ここが良くなった」という手応えが、どこにも残らない。

手応えが残らないまま、時間だけが減っていく。その感覚を、たぶん人は「罪悪感」と呼んでいるんだと思います。

ハル
わかります。しんどいというか、焦るんですよね。このままでいいのかな、って。
アヴァン
そう。だから「つらい」と「焦る」が混ざってて、自分でもどっちなのか分からなくなる。ここを分けて考えると、少し楽になります。

もしあなたが「こんなことで参る自分は弱いのかな」と思っていたなら、少し見方を変えてみてください。弱さの問題じゃなくて、実感の問題かもしれません。

耐える力が足りないのではなく、積み上がったものが見えていないだけ。この2つは、まったく別の話です。

なお、同じ「つらい」でも、ミスをするのが怖いほうが大きい人は、こちらのほうが近いかもしれません。悩みが違うので、記事を分けています。

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言えないのは、弱いからではありません

じゃあ職場で言えるか、というと、これがまた言いにくい。

理由は、はっきりしています。

まず、単調な仕事を好む人が実際にいます。

これ、嫌味でも意地悪でもなくて、本当にそうなんです。考えることが少ない仕事のほうが気が楽、という人はいる。頭を使う仕事のほうがしんどい、という人もいる。

だから「楽でいいじゃん」と言う人に、悪意はないことが多いです。その人にとっては、本当に楽なので。

でも、そう言われた側からすると、こっちが少数派になります。「つらいと感じるほうがおかしいのかな」と。

次に、そう返された時点で話が終わります。「楽でいいじゃん」に続く言葉が、こちらにない。

そして——これがいちばん大きいと思うんですが。

ここが本当の理由だと思います


言ったら、難しい仕事を振られそうなんですよね。

「じゃあこっちやってみる?」と。それはそれで、望んだ形じゃない。

だから黙る。

これ、弱いから黙っているわけじゃないです。言った先に起きることを考えたうえでの、合理的な判断です。

なので、この記事では「勇気を出して言ってみましょう」とは書きません。言いにくいのには理由があるので。

代わりに、言わなくても確かめられることを書いていきます。

作業の設計は、あなたではなく会社側の話として書かれています

ここからは、法律の話です。

労働安全衛生法には、こう書いてあります。

事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。

労働安全衛生法 第65条の3

主語が「事業者は」です。

「作業の管理」は、作業者が気合いでどうにかするものではなく、会社側の話として法律に書かれている。

もう1つ、もっと具体的な条文があります。

事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備

労働安全衛生法 第71条の2

二号。「作業の方法を改善するための措置」。

条文に、そう書いてあります。

「同じ作業がしんどい」と感じることに対して、作業の方法を改善するという発想が、法律の側に用意されているわけです。あなたが編み出さなければいけないものではありません。

ただし、これは「義務」ではなく「努力義務」です

ここは正直に書きます。

いま挙げた2つの条文、どちらも語尾が同じです。

ここを盛ると、あなたが損をします


「努めなければならない」

これは努力義務といって、「やらなければならない(義務)」とは区別されます。守らなくても、それだけで直ちに違反になるものではありません。

だから、職場で「法律で決まってます」と言うと、話がこじれます。

正確には「そうするよう努めることになっている」です。ここを盛ると、言った側が不利になる。

……身も蓋もない話ですみません。でも、盛って伝えて恥をかくより、正確に知っておくほうが、あなたの役に立つと思っています。

そのうえで、こう考えてみてください。

努力義務であっても、「作業の方法を改善する」という発想が国の側にあることは変わりません。少なくとも、「単調さがつらいのは、耐える側の問題だ」という話には、法律はなっていない。

それだけでも、立っている場所が少し変わりませんか。

「疲れを回復するための施設」も、条文には入っています

さっきの71条の2、三号にはこう書かれています。

「作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備」

この中身を具体化した指針が、国から出ています。

臥床できる設備を備えた休憩室等を確保すること。

事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針・第2

「臥床」は、横になる、という意味です。横になれる休憩室、ということですね。

……ただ。

そんな休憩室、ない職場のほうが多いと思います。私の職場にもありません。

だからここでは「あるか探してみましょう」とは言いません。無かったときに、余計にしんどくなるだけなので。

知っておいてほしいのは、「無いのが当たり前ではない」ということだけです。指針には、そう書いてある。それ以上でもそれ以下でもありません。

ちなみに、休憩室そのものより「休むこと自体に気が引ける」ほうが大きい人は、こちらもどうぞ。

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意見を上げる先だけは、決まっています

同じ指針の第3には、こうあります。

安全衛生委員会を活用する等により、その職場で働く労働者の意見ができるだけ反映されるよう必要な措置を講ずること。

同指針・第3

「労働者の意見ができるだけ反映されるよう」。

つまり、意見を吸い上げる経路は、用意されていることになっています。

これも「じゃあ上げましょう」とは言いません。さっき書いたとおり、言うことにはリスクがあります。

ただ、経路が存在すること自体は、知っておいて損はないと思います。使うかどうかは、そのときのあなたが決めればいい話です。

職場で「意見を聴く機会」がどう作られているかは、別の記事でも書きました。

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「会社に知られるかも」で行っていない人へ

もう1つ、書いておきたいことがあります。

ストレスチェックです。

毎年受けている、という人は多いと思います。私も受けています。結果も手元に届きます。

でも——高ストレスと判定されても、面接指導まで行かない人、多くないですか。

私も行っていません。理由は2つあって、正直に書くと、

  • めんどう
  • 会社に知られるかもしれない、という不安

この2つ目について、条文を見てみてください。

…当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。

労働安全衛生法 第66条の10 第2項

あなたの同意なしに、結果を会社に渡してはいけないと書かれています。

さらに、こうあります。

事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。

同 第3項

ここは語尾が違います


面接指導を申し出たことを理由に、不利益な扱いをしてはいけない。

こちらは「努めなければならない」ではなく、「してはならない」です。

念のため書いておくと、行きましょう、と勧めているわけではありません。行くかどうかは、あなたが決めることです。

ただ、行かない理由が「会社に知られるかも」だったのなら、そこには条文が先に答えている。それだけは、知っておいてもいいんじゃないかと思います。

明日、1つだけできること

長くなったので、明日できることを1つだけ書きます。

明日、1つだけ


単調な作業の中に、自分で「見る役割」を1つ持ち込む。

私がやっているのは、こういうことです。

  • 手元の作業で、決まりどおりになっていないところがないか、目を向けてみる
  • やったことのない工程や手順に、少しだけ手を伸ばしてみる

作業そのものは変わりません。ラインは同じ速さで流れるし、部品も同じです。

でも、自分の役割が少しだけ変わります。「こなす人」から「見ている人」になる。

そして、見ている人には気づくことが出てきます。「この手順、決まりだとこうなってるけど、実際はこうやってるな」とか、「ここ、たまに引っかかるな」とか。

その気づきは、たぶん誰にも言わなくていいです。言うと難題を振られるかもしれないので。自分の中に溜めておくだけで十分です。

これ、根性論を言いたいわけじゃないんです。「意識を高く持とう」という話でもない。

そうではなくて——最初に書いた罪悪感、「積み上がっていない」という感覚に、ここが効くと思っています。作業は積み上がらなくても、見え方は積み上がるので。

ひとつだけ、気をつけてほしいこと


他の人のあら探しにはしないでください。見るのは、あくまで自分の手元です。

人の粗を探し始めると、職場でしんどくなるのは自分のほうです。

合わなければ、やらなくていいです。そういうやり方もある、というだけの話なので。

それでも、つらさが続くときは

ここまで書いてきましたが、工夫でどうにかする話ではないところまで来ていることもあります。

  • 休んでも回復しない
  • 何をしても虚しい
  • 眠れない、涙が出る

そういう状態が続いているなら、単調さの工夫だけで抱え込まないでください。

つらいときは、ここへ


厚生労働省の「こころの耳」が、働く人のメンタルヘルス相談を受けています。電話・SNS・メールがあって、匿名・無料です。

https://kokoro.mhlw.go.jp/

私は医者ではないので、ここから先のことは言えません。ただ、相談先があることだけは、書いておきます。

まとめ:積み上がっていないように見えても

最後に、もう一度だけ。

つらいのは、あなたが耐えられないからではありません。たぶん、「積み上がっている実感がない」からです。

そして、言えないのも弱いからではありません。言えば「楽でいいじゃん」で終わるか、難題を振られるか。黙っているのは、ちゃんと考えたうえでの判断です。

そのうえで、条文にはこう書いてあります。











疑問条文はこう言っている
作業がしんどいのは自分の問題?作業の管理は事業者が努めるもの(安衛法65条の3)
改善なんて言っていいの?「作業方法の改善」は条文に入っている(同71条の2第2号)。ただし努力義務
休む場所は?疲労を回復するための施設(同第3号)/指針は臥床できる休憩室まで書いている
意見はどこへ?労働者の意見が反映されるよう措置(快適職場指針 第3)
ストレスチェックの結果は会社に行く?同意なしに提供してはならない(同66条の10第2項)
申し出たら不利になる?不利益な取扱いをしてはならない(同第3項)

明日も、たぶん同じ作業です。

それでも、問題があるのはあなたの内側ではない、というところだけ持って帰ってもらえたら。

それで十分です。

この記事で参照した法令・指針


労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第65条の3、第66条の10第2項・第3項、第71条の2/e-Gov法令検索
事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針(平成4年7月1日 労働省告示第59号)第1・第2・第3/厚生労働省

※法令は改正されることがあります。個別の判断(自分の職場に当てはまるか、健康上の相談)については、勤務先の産業医・衛生管理者、お住まいの地域の労働基準監督署、または「こころの耳」にご相談ください。

  • この記事を書いた人

アヴァン

はじめまして、アヴァンです。電子部品系の工場で働く、現役の製造業ワーカーです。ミスが怖い夜、辞めたくなる朝、なかなか覚えられなくて落ち込む日——現場で私自身がつまずいたことや、そこで見つけた小さなコツを、同じ目線で書いています。えらそうに教える場所ではなく、あなたが明日もうちょっと楽になるための「保健室」でありたいと思っています。

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