現場の実務

工場の騒音で耳鳴りが残る|耳栓を外してしまうのは、あなたの甘えではありません

耳栓、もらってはいるんです。でも着けると人の話が聞こえなくて、けっきょく外しちゃって……。
ハル
アヴァン
わかります。私もそうでした。でもあれ、だらしないからじゃないんですよ。国のほうが先に「そうなる」って書いてます。

工場の音って、慣れたつもりでいても、体のどこかには残っているものです。

シュー……と鳴り続けるエアーの音。機械の回る音。それが一日中。

そして仕事が終わって、車に乗って、エンジンを切った瞬間。まだ耳の奥で何か鳴っている。

耳栓はあります。人数分、ちゃんと置いてあります。でも着けると、呼ばれても気づかない。話しかけられても聞き取れない。だから外してしまう。

外している自分が、だらしないんだろうか。

そう思ったことがある人に向けて書いています。先に結論から言います。

「耳栓を着けると聞こえなくなるから外してしまう」——これは、あなたの甘えではありません。国のガイドラインに、そうなることが先に書いてあります。

しかも書いてあるのは「我慢して着けろ」ではなく、「遮音値が必要以上に大きいものを選ばないように配慮しなさい」「話が通じる別の手段を考えなさい」という、会社側への注文のほうです。

この記事は、あなたの耳の状態を診断する記事ではありません


「会社を訴えましょう」という記事でもありません。何が決まっていて、自分では何を確かめられて、将来のために今なにを残せるのか。 そこが分かると、外してしまっていた自分を責めなくてよくなります。そこまでを目的にした記事です。

耳の状態そのものが気になるときは、耳鼻咽喉科で診てもらってください。

耳栓を外してしまうのは、あなたの甘えではありません

まず、いちばん大事なところから。うるさい現場で働いていると、だんだんこう思うようになります。

「みんな着けてないし、自分だけ気にしすぎかな」
「耳栓くらいで文句を言ったら、根性がないと思われる」
「そもそも着けたら仕事にならないんだから、外す自分が悪い」

最後のやつ、違います。

騒音の対策には、厚生労働省が出している「騒音障害防止のためのガイドライン」というものがあります。2023年(令和5年)4月に全面的に改訂された、比較的新しいものです。そこに、こう書いてあります。

なお、危険作業等において安全確保のために周囲の音を聞く必要がある場合や会話の必要がある場合は、遮音値が必要以上に大きい聴覚保護具を選定しないよう配慮すること。

騒音障害防止のためのガイドライン 7-(1)-ア(令和5年4月20日 基発0420第2号)

もう一つ、同じガイドラインの「解説」のほうには、もっとはっきり書かれています。

騒音作業を有する作業場では、会話によるコミュニケーションが阻害される場合が多いが、聴覚保護具の使用はさらにこれを増大させる可能性があるので、適切な意思伝達手段を考える必要があること。また、非常の際の警報には音響ではなく、赤色回転灯などを用い二次災害の防止に配慮すること。

騒音障害防止のためのガイドラインの解説 4-(1)-オ

読んでみてください。「耳栓をすると話が通じなくなる」ことは、想定外の出来事ではないんです。 はじめから織り込まれています。

そのうえで「じゃあどうするか」を考えるのは、会社側の宿題として書かれています。

つまり、あなたが困っていたことには、先に答えの場所が用意されていた。 知らされていなかっただけです。

「今は大丈夫。でも将来が心配」という感じ、ありませんか

私がいちばん書きたかったのは、ここです。

耳鳴りが帰りの車の中まで残っている。でも翌朝には消えている。だから、たぶん大丈夫。

大丈夫なんだけど、なんとなく将来が心配。

この「今は大丈夫だけど」という感じ、うまく言葉にしにくいですよね。誰かに相談するほどでもない。病院に行くほどでもない気がする。でも、消えない。

ネットで調べてみると、同じことを聞いている人がいます。「一度聞こえにくくなった耳は、元には戻らないのでしょうか」と。

これに対して、厚生労働省がパンフレットに書いている言葉があります。

一度失われた聴力は元に戻りません。適切な対策を行い、騒音障害を防止しましょう。

厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドライン パンフレット」

ここは正直に書きます


やさしい言葉ではありません。でも、ここをぼかして「大丈夫ですよ」と書くほうが、私は不誠実だと思いました。

大事なのは、この一文の意味です。「もう手遅れ」という意味ではありません。「これからのぶんは、今から減らせる」という意味です。

ここに書いているのは制度の話で、耳の状態の判断ではありません


耳鳴りや聞こえにくさが気になるときは、自分で判断せずに耳鼻咽喉科で診てもらってください。

ちなみに、耳の医学と産業医学の両方に詳しい医師として、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が「騒音性難聴担当医」を認定しています(ガイドライン解説より)。そういう仕組みがある、と知っておくと相談先を探すときに役に立つかもしれません。

気にしているのは、あなただけではありません

もうひとつ、数字を置いておきます。

会社が行う健康診断のうち、騒音の作業をしている人向けの聴力検査というものがあります。厚生労働省が毎年、その実施状況を集計しています。令和6年(2024年)の集計は、こうでした。

令和6年・騒音の健康診断人数
受診した労働者364,061人
そのうち所見があった人66,445人
割合18.25%(前年は15.24%)
厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査」令和6年・特殊健康診断実施状況(対象作業別)より作成

ここを誤解しないでください


「所見あり」は検査で気になる点があったということで、病名ではありません。年齢による聞こえ方の変化なども含まれます。「5人に1人が難聴」という意味ではありません。

それでも、言えることがひとつあります。騒音の中で働いていて、耳のことが気になっている人は、まったく珍しくない。 あなただけが気にしすぎているわけじゃないんです。

耳栓は、本来あなたが用意するものではありません

ここは、意外と知られていないところです。労働安全衛生規則という決まりに、こう書いてあります。

事業者は、強烈な騒音を発する場所における業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、耳栓その他の保護具を備えなければならない。

労働安全衛生規則 第595条第1項

「備えなければならない」。 努力目標ではなく、会社側の義務として書かれています。しかも、次の条文にはこう続きます。

事業者は、(中略)保護具については、同時に就業する労働者の人数と同数以上を備え、常時有効かつ清潔に保持しなければならない。

労働安全衛生規則 第596条

人数ぶん。しかも、清潔に。

「共用のやつが一箱だけ置いてある」「汚れてきたけど言い出せない」——そういう状態は、この条文が想定しているかたちではありません。そして、その次。

(中略)労働者は、事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときは、当該保護具を使用しなければならない。

労働安全衛生規則 第597条

つまり、耳栓は「気にしすぎな人が特別に着けるもの」ではなく、決まりの中に組み込まれた段取りの一部なんです。耳栓をくださいと言うのは、わがままではありません。

「着けてはいけない」決まりのある保護具もあります。そちらの話は、この記事に書きました。

あわせて読みたい
手袋をしてはいけない作業がある|素手が怖いときにできること

手袋を外せと言われても、素手は怖い。法令が禁じているのは手袋そのものではなく、巻き込まれるおそれのある場面のほうでした。

続きを見る

ただ、私の職場の話をすると

正直に書きます。私の職場には、耳栓は人数分ちゃんとありました。 掲示もありました。足りなかったわけではないんです。

それでも、私は外していました。理由は「人の話が聞こえにくいから」でした。

だからこの記事は、「会社が耳栓をくれない」という話ではありません。物があることと、着けられることは別。 そこの話をします。

このあたり、暑さの記事とまったく同じ構造でした。あちらも「塩飴もスポーツドリンクも空調もあった。それでも言えなかった」という話です。

あわせて読みたい
工場の暑さを我慢していませんか|熱中症は「気合い」ではなく決まりごとの話です

※本記事にはプロモーション(広告)が含まれます。 夏の工場、暑すぎて頭がぼーっとするんです。でも「暑いです」って言いにくくて……。ハル アヴァンわかります。私もそうでした。でもあれ、気合いの話じゃない ...

続きを見る

遮音値は、大きいほど良いわけではありません

ここが、この記事のいちばんの本題です。

耳栓を選ぶとき、なんとなく「遮音できる数字が大きいほど良いもの」だと思っていませんか。私は思っていました。ガイドラインは、逆のことを書いています。

事業者は、聴覚保護具については、日本産業規格(JIS)T8161-1に規定する試験方法により測定された遮音値を目安に、必要かつ十分な遮音値のものを選定すること。

なお、危険作業等において安全確保のために周囲の音を聞く必要がある場合や会話の必要がある場合は、遮音値が必要以上に大きい聴覚保護具を選定しないよう配慮すること。

騒音障害防止のためのガイドライン 7-(1)-ア

「必要かつ十分」。「最大限」ではありません。

JIS T8161-1 は、聴覚保護具の遮音値をどう測るかを決めている規格です。規格そのものは購入して読むものなので、ここでは中身を引き写さず、そういう物差しがあるという紹介にとどめます。

つまり、「聞こえなさすぎて外してしまう」という状態は、選び方のほうがズレている可能性があるわけです。根性の問題ではありません。

ガイドラインの解説に書いてある、選び方の実務

同じガイドラインの解説には、もっと現場寄りのことが書かれています。かいつまんで並べます。

耳栓・イヤーマフを選ぶときの4つ(ガイドライン解説より)

  • 耳栓は「二次的」なもの。まず音そのものを小さくする、音の通り道を断つ。それで十分に下げられないときに耳栓が出てくる(順番としては最後)
  • 耳栓とイヤーマフ(耳覆い)は、どちらが良いかが作業と音の性質で変わる。非常に強烈な騒音には両方を併用することが有効
  • 耳の穴の形や大きさは人によって違うので、その人に合ったものを使う
  • 緩みや隙間があると効果が出ない。作業中に緩んだら、その都度つけ直す

3つめ、地味ですが大事だと思います。「支給されたものが自分の耳に合っていない」ことは、ふつうに起こりうると、国の文書が認めているということです。

合わないまま我慢して、けっきょく外す。それが一番もったいない。

「聞こえない」は、ゼロか百かではありません

耳栓を外す理由って、たいてい「まったく聞こえなくなるのが困る」ですよね。

でも遮音の考え方は、音を消すことではなく音を下げることです。だから「必要かつ十分な遮音値」という言い方になります。

もし今、支給されているものが合っていないと感じるなら、言い方はこれで足ります。

そのまま使える一言


「これだと呼ばれても気づかないんですけど、別のタイプってありますか?」

文句でもなく、要求でもありません。選び方の相談です。しかもガイドラインは、選定するのは事業者だと書いています。聞いていい話なんです。

「呼ばれても気づかない」は、会社側の宿題として書かれています

さきほどの解説を、もう一度見てください。ここ、すごく実務的なことを言っています。

うるさい現場では、そもそも声が届かない。耳栓をすればもっと届かなくなる。だから「声以外の伝え方」を用意しておきなさい、と。

非常時の合図まで、音ではなく光にしろと書いてあります。

明日、ひとつだけできること

決裁権はいりません。お金もかかりません。角も立ちません。

「呼ぶときの合図、どうします?」を、一緒に働いている人と一度だけ決めておく。

  • 肩を軽く叩く
  • 視界に入る位置まで回り込んでから手を挙げる
  • 遠いときはライトを振る

たったこれだけです。でもこれが決まっていると、耳栓を着けたままでいられる時間が延びます。

耳栓が続かない理由の多くは「うるさいのが嫌」ではなく、「着けていると仕事が回らない」なんですよね。だったら、回るようにすればいい。

そしてこれは、「止める・呼ぶ・待つ」の話とも地続きです。呼べない現場は、耳栓の問題より前に危ないです。

あわせて読みたい
「止める・呼ぶ・待つ」と教わったのに、待っていたら怒られた ― 工場で迷ったときの判断の基準

止めて・呼んで・待てと教わったのに、待っていたら怒られた。あの板挟みで迷ったとき、何を基準に動けばいいのかを整理しました。

続きを見る

音の大きさを測るのは、会社の仕事です

「うちの職場、実際どれくらいうるさいんだろう」

気になりますよね。でも安心してください。測るのは、あなたの仕事ではありません。

事業者は、(中略)著しい騒音を発する屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、等価騒音レベルを測定しなければならない。

2 事業者は、前項の規定による測定を行つたときは、その都度、(中略)記録して、これを三年間保存しなければならない。

労働安全衛生規則 第590条

さらに、こうも書かれています。

事業者は、(中略)施設若しくは設備を変更し、又は(中略)作業工程若しくは作業方法を変更した場合には、遅滞なく、等価騒音レベルを測定しなければならない。

労働安全衛生規則 第591条

半年に一度。そして設備やラインを変えたら、そのつど。 記録は3年間残す決まりです。

これは労働安全衛生法65条(作業環境測定)から降りてきている義務で、その65条1項に違反した場合には罰則も定められています(安衛法119条/6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)。脅すつもりで書いているのではなく、「努力目標ではない」ということが伝わればと思います。

では、どんな職場が対象なのか

法令で「著しい騒音を発する屋内作業場」とされているのは、次の9つです(労働安全衛生規則588条)。

  1. 鋲打ち機、はつり機、鋳物の型込機など圧縮空気で動く機械・器具を扱う作業場
  2. ロール機、圧延機などによる金属の圧延、伸線、ひずみ取り、板曲げの作業場
  3. 動力で動くハンマーを使う金属の鍛造・成型の作業場
  4. タンブラーによる金属製品の研磨・砂落としの作業場
  5. 動力でチェーンなどを使ってドラム缶を洗浄する作業場
  6. ドラムバーカーで木材を削皮する作業場
  7. チッパーでチップする作業場
  8. 多筒抄紙機で紙を抄く作業場
  9. そのほか、厚生労働大臣が定める作業場

「うちは入ってないな」と思った人、まだあります。

ガイドラインは、法令上の義務にはなっていないけれど、85デシベル以上になる可能性が大きい作業場を52種類挙げています。製造業でよく見るものを抜き出すと、こんな感じです。

ガイドラインが挙げている作業場(製造業でよく見るもの)

  • インパクトレンチ、ナットランナー、電動ドライバーなどでボルト・ナットを締めたり外したりする作業場
  • 動力プレス(油圧プレス・プレスブレーキを除く)で鋼板を曲げる・絞る・切断する作業場
  • 携帯用研削盤、ベルトグラインダー、チッピングハンマーなどで金属表面を研削・研磨する作業場
  • 丸のこ盤で金属を切断する作業場
  • 射出成形機でプラスチックを押し出す・切断する作業場
  • 金属を溶融して鋳鉄製品・合金製品を成型する作業場
  • 鋼材・金属製品などをロール搬送する作業場

けっこう、身近じゃないですか。そして、ここも大事です。ガイドラインにはなお書きがあります。

なお、別表第1及び別表第2に掲げる作業場以外の作業場であっても、騒音レベルが高いと思われる業務を行う場合には、本ガイドラインに基づく騒音障害防止対策と同様の対策を講ずることが望ましい。

騒音障害防止のためのガイドライン 2

私の職場でうるさかったのは、実はエアー(空気の噴射音)でした。リストに「エアーブロー」という言葉は出てきません。

でも、リストに載っていないから対策しなくていい、とは書かれていない。 そこは押さえておいていいと思います。

職場で、自分の目で確かめられること

ここまで「会社側の義務」の話が続きました。じゃあ自分の職場がどうなっているかは、どうやって知ればいいのか。

実は、目で見て確かめられるものがあります。掲示と標識です。

騒音の測定をすると、その場所は3つの区分に分けられます。

区分だいたいの目安会社がやること
第Ⅰ管理区分85dB未満今の状態を保つように努める
第Ⅱ管理区分85dB以上
90dB未満
標識で「第Ⅱ管理区分」だと明示/作業環境を改善する/必要に応じて聴覚保護具を使わせる
第Ⅲ管理区分90dB以上標識で明示/改善したうえで効果を再測定/聴覚保護具を使わせ、使用状況を管理者に確認させ、見やすい場所に掲示
実際の区分けはA測定・B測定の組み合わせで決まります。ここでは目安として書いています

ポイントは、第Ⅱ・第Ⅲ管理区分は「標識で明示する」ことになっているという点です。さらに、耳栓の使用を命じたときも、こう決まっています。

事業者は、(中略)保護具の使用を命じたときは、遅滞なく当該保護具を使用しなければならない旨を、作業中の労働者が容易に知ることができるよう、見やすい場所に掲示しなければならない。

労働安全衛生規則 第595条第3項

「見やすい場所に」。 つまり、作業者が自分の目で確かめられるようにしておく決まりなんです。

明日、ちょっと壁を見てみてください。

明日、壁を見てみるチェック

  • 「耳栓着用」の掲示が出ていないか
  • 「第Ⅱ管理区分」「第Ⅲ管理区分」の表示がないか
  • 床に区画の線が引かれていないか

私の職場には、ありました。当時はほとんど意識して見ていませんでしたが。

見当たらなくても、「うちの会社は違反だ」と決めつけないでください


掲示が必要かどうかは、その場所の測定結果によって変わります。見当たらないなら、「うちって騒音の測定してるんですか?」と聞いてみる材料ができた、くらいに受け取るのがちょうどいいと思います。

ちなみに、掲示があるということは、会社が「ここは耳を守る場所だ」と認識しているということです。それはそれで、悪い話ではありません。

会社には「耳の健康診断」の枠組みがあります

聴力検査、受けたことがありますか。ヘッドホンをつけて、音が聞こえたらボタンを押すやつです。あれ、実はきちんと制度になっています。

種類いつ受けるか中身
雇入時等
健康診断
入社のとき
配置替えのとき
250〜8,000Hzの聴力検査(オージオメータ)ほか
定期
健康診断
6か月以内ごとに1回1,000Hzと4,000Hzの選別聴力検査ほか
二次検査定期健診で気になる点があった人などくわしい聴力検査。騒音作業が終わって半日以上たってから実施
騒音障害防止のためのガイドライン 8 より作成

そして、2023年(令和5年)の改訂で、こんな変更が入っています。

4,000Hzの検査音圧が、40dB から 25dB・30dB に変わりました。

難しく聞こえますが、意味はシンプルです。より小さい変化を拾えるようにしたということ。それだけ早く気づけるようにしよう、という方向の改訂です。6,000Hzの検査も追加されました。

耳鳴りは、健診で言っていいことです

ここ、知っておいてほしいところです。ガイドラインの解説に、健診でこういうことを聞き取ると書かれています。

聴力検査を実施する前に、あらかじめ騒音のばく露歴(中略)について調査するとともに、耳栓、耳覆い等の聴覚保護具の使用状況も把握しておく。さらに、現在の自覚症状として、耳鳴り、難聴の有無あるいは最近の疾患などについて問視診により把握する。

騒音障害防止のためのガイドラインの解説 5-(4)-ア

「耳鳴り」という言葉が、そのまま入っています。

つまり、耳鳴りは我慢して黙っておくものとして扱われていない。 聞かれる前提の項目なんです。

同じように、耳栓を使えているかどうかも聞き取り項目に入っています。「着けられていません」と言うのは、正直に答えているだけです。

将来が心配な人が、いま残しておけること

さて、最初の話に戻ります。「今は大丈夫。でも将来が心配。」

この心配に対して、いまできることが、ひとつだけあります。

記録を残しておくことです。

① 毎年の聴力検査の結果を、自分でも持っておく

会社が健診をしてくれているなら、その結果は毎年出ています。そのコピーを、自分の手元にも残しておく。

いま1年ぶんだけ見ても、正直よく分かりません。でも5年、10年と並べたときに、初めて意味が出ます。 変わっていないことが分かるのも、立派な情報です。

将来なにか気になったとき、「この10年、こうでした」と自分で言えるかどうかは、けっこう大きな違いになります。

② 騒音の仕事から離れるときに、測っておく

これは、ほとんど知られていないと思います。ガイドラインの解説に、こう書かれています。

離職時又は騒音作業以外の作業への配置転換時(中略)の聴力の程度を把握するため、離職時等の前6月以内に本ガイドラインに基づく定期健康診断を行っていない場合には、同じ項目の検査を行うことが望ましい。

騒音障害防止のためのガイドラインの解説 5-(3)-ウ

「離職時等健康診断」といいます。

  • 転職するとき
  • 部署が変わって、うるさくない持ち場に移るとき

このタイミングで一度測っておくと、「騒音の職場にいた期間の終わりの状態」が記録に残ります。

義務ではなく「望ましい」という書かれ方なので、会社から言ってくることは少ないかもしれません。だからこそ、知っている人が得をする話だと思います。

異動や退職が決まったら、この一言


「離職時の聴力検査ってできますか」

一度聞いてみてください。それだけで、記録がひとつ残ります。

記録が意味を持つ場面って、現場にはけっこうあります。そのあたりは、こちらの記事でも書きました。記録は、未来の自分のために取るものです。

あわせて読みたい
工場の検査記録は何のために書くのか|意味が分かると漏れが減る

チェックシートが、作業を増やすだけの仕事に見える。何のために書いているのかが分かると、書き方も、見るべき場所も変わります。

続きを見る

それでも、音は今日も鳴っています

ここまで、決まりごとの話をしてきました。

でも正直に言うと、この記事を読んだからといって、明日から工場が静かになるわけではありません。 エアーは今日も鳴っているし、耳栓は今日も少し邪魔です。

ひとつだけ、事実として置いておきたいものがあります。厚生労働省が2023年にガイドラインを全面改訂したとき、その理由をこう書いています。

しかしながら、騒音障害防止対策は、その取組が進んでいる業種はあるものの、騒音障害防止対策の対象となる作業場において広く浸透しているとは言い難く、更なる対策を進める必要がある。

令和5年4月20日 基発0420第2号

「広く浸透しているとは言い難い」。 国が、自分でそう書いています。

だから、もしあなたの職場で騒音の話があまり出てこないとしても、それはあなたの職場が特別にひどいわけではありません。 全国的にそうだから、国がわざわざ改訂したんです。

そして同じことが、あなた自身にも言えます。

耳栓を外していたのは、あなたがだらしなかったからではありません。聞こえなくなると仕事が回らないからで、それは国の文書にも書いてある、ごく当たり前の困りごとでした。

明日できることは、たぶんこのくらいです。

明日できること(お金も決裁もいりません)

  • 壁の掲示を見てみる(耳栓着用・管理区分の表示)
  • 「これだと呼ばれても気づかないんですけど、別のタイプありますか」と聞いてみる
  • 呼ぶときの合図を、一緒に働く人と決めておく
  • 健診の結果を、自分でも持っておく

よくある質問

一度聞こえにくくなった耳は、元に戻らないんですか?

厚生労働省のパンフレットには「一度失われた聴力は元に戻りません」と書かれています。ただし、あなたの耳が今どういう状態なのかは、この記事では判断できません。 気になるときは、自己判断せずに耳鼻咽喉科を受診してください。耳の医学と産業医学の両方に詳しい医師として「騒音性難聴担当医」を学会が認定する仕組みもあります。

耳栓は自分で買わないといけないんですか?

労働安全衛生規則595条は、事業者が「備えなければならない」としています。596条では、同時に就業する人数と同数以上を、清潔に保つことまで求めています。まずは職場にあるものを確認してみてください。

耳栓さえしていれば大丈夫ですか?

ガイドラインの解説では、聴覚保護具は「騒音レベルの低減化を十分に行うことができない場合に、二次的に使用するもの」と位置づけられています。順番としては、まず音そのものを小さくする・音の通り道を断つ、が先です。耳栓は最後の受け皿です。

うちの工場はリストに載っていない作業なんですが、対象外ですか?

ガイドラインには「別表に掲げる作業場以外であっても、騒音レベルが高いと思われる業務を行う場合には、同様の対策を講ずることが望ましい」と書かれています。リストに無い=関係ない、ではありません。

騒音による難聴は、労災になりますか?

労働基準法施行規則の業務上疾病の一覧(別表第1の2 第2号11)には、「著しい騒音を発する場所における業務による難聴等の耳の疾患」が挙げられています。ただし、実際に認定されるかどうかは個別の判断になります。ここでは「制度としては存在する」というところまでにとどめます。気になる場合は、労働基準監督署や産業医に相談してください。

耳栓とイヤーマフ、どっちがいいですか?

ガイドラインの解説には「どちらが適切であるかは、作業の性質や騒音の特性で決まる」「非常に強烈な騒音に対しては耳栓と耳覆いとの併用が有効」と書かれています。どちらが上、という話ではありません。作業に合うほうを選ぶ、が答えです。

この「会社が備えるもの・見せるもの」という構造は、耳栓だけの話ではありませんでした。薬品のラベルとSDSでも、まったく同じことが決まっています。

あわせて読みたい
中身の分からない容器をさわっていませんか|ラベルとSDSは、会社が見せるものです

この青いボトル、何が入ってるんだろう……。毎日使ってるのに、実はよく知らなくて。ハル アヴァンそれ、あなたが聞かなかったからじゃないです。中身を知らせるのは、そもそも会社の側の決まりなんですよ。 作業 ...

続きを見る

まとめ

長くなったので、3つだけにまとめます。

この記事のまとめ


1. 耳栓を着けると話が聞こえなくなる——それは想定内のことです。 ガイドラインに先に書かれています。あなたの甘えではありません。

2. 遮音値は大きいほど良いわけではありません。「必要かつ十分」が国の書き方です。合わないなら、別のタイプを相談していい。

3. 「今は大丈夫。でも将来が心配」への答えは、記録です。 毎年の聴力検査の結果を自分でも持っておく。騒音の職場を離れるときに、一度測っておく。

音は、明日も鳴っています。

それでも、外してしまっていた自分を責めるのは、今日でやめていいと思います。

明日、まず壁を見てみます。あと「別のタイプありますか」って聞いてみようと思います。
ハル
アヴァン
それで十分です。あと、健診の結果はコピーして取っておいてくださいね。未来の自分のためです。

出典

  • 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第588条・第590条・第591条・第595条・第596条・第597条/e-Gov法令検索
  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第22条・第65条・第119条/労働安全衛生法施行令 第21条/e-Gov法令検索
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)別表第1の2 第2号11/e-Gov法令検索
  • 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」(令和5年4月20日 基発0420第2号)本文・別表・解説
  • 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドライン パンフレット」
  • 厚生労働省「業務上疾病発生状況等調査」令和6年・令和5年 特殊健康診断実施状況(対象作業別)

JIS T8161-1・JIS Z8731・JIS C1509-1 は、聴覚保護具の遮音値や騒音レベルの測り方を決めている規格です。規格そのものは購入して読むものなので、この記事では中身を引き写さず、規格の番号と「何を決めているか」の紹介にとどめています。

※この記事は法令・国のガイドラインと、筆者の現場での経験をもとに書いています。個別の判断(耳の状態・持病・職場の状況)については、医療機関・産業医・お住まいの地域の労働基準監督署にご相談ください。法令やガイドラインは改正されることがあります。読んだ時点の最新のものをご確認ください。

  • この記事を書いた人

アヴァン

はじめまして、アヴァンです。電子部品系の工場で働く、現役の製造業ワーカーです。ミスが怖い夜、辞めたくなる朝、なかなか覚えられなくて落ち込む日——現場で私自身がつまずいたことや、そこで見つけた小さなコツを、同じ目線で書いています。えらそうに教える場所ではなく、あなたが明日もうちょっと楽になるための「保健室」でありたいと思っています。

-現場の実務