現場の実務

KY活動が形だけになっているとき|KYは「新しい危険を見つける場」ではありません

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毎朝のKY、正直もう形だけになってて……。書くことも毎回同じで。
ハル
アヴァン
それ、あなたの意識が低いからじゃないです。KYはそもそも、そういう場なので。

毎朝5分。KYシートに危険を書いて、対策を書いて、みんなで読み上げる。

書いていることは、先週も先月も、だいたい同じ。

「挟まれ・巻き込まれに注意」「指差呼称の徹底」。書きながら、これ意味あるのかな、と思う。でも「マンネリだ」「意識が低い」と言われると、何も言い返せない。

そういう人に向けて書いています。先に結論から言います。

KY活動は、新しい危険を見つける場ではありません。

危険を洗い出すのは、別の仕組みの仕事です。KYがやるのは、今日やる作業に的を絞ること

だから、毎日同じ内容になるのは、仕組みの上ではあたりまえなんです。あなたのやる気の問題ではない。

この記事は「KY活動は無意味」という話ではありません


やめましょう、とも言いません。

ただ、何をする場なのかが分かると、毎朝の5分の意味が変わります。 そこまでを目的にした記事です。

KYは「新しい危険を見つける場」ではありません

まず、いちばん大事なところから。

KY活動に対して「毎日同じ内容になるのはおかしい」「マンネリを打破しよう」という言い方をよく見ます。ネタを増やす方向の記事も、たくさんあります。

でも、ちょっと考えてみてください。

あなたの職場の危険は、昨日と今日で変わりましたか。

たぶん、変わっていないですよね。同じ設備、同じ材料、同じ手順。変わっていないものについて毎日新しい危険を出せ、というほうが無理があります。

「毎日同じことしか出てこない」のは、あなたが手を抜いているからではなく、危険が毎日入れ替わるものではないからです。

ここを取り違えたまま「もっと違うことを書け」と言われるから、しんどくなる。

じゃあ、危険を洗い出す仕事は誰がやっているのか。ここから見ていきます。

危険を洗い出すのは、別の仕組みの仕事です

危険を網羅的に洗い出す仕組みは、ちゃんと別にあります。リスクアセスメントです。労働安全衛生法の第28条の2に、こう書かれています。

事業者は、(中略)危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて、(中略)必要な措置を講ずるように努めなければならない

労働安全衛生法 第28条の2第1項(太字は筆者)

主語が「事業者は」で始まっている、ここだけ見てもらえれば十分です。

危険を洗い出して手を打つのは、会社の側に置かれた役割なんですね。毎朝の集まりでやることとして書かれているわけではない。

そして、これをいつやるかも決まっていて、全部「変わったとき」です(労働安全衛生規則第24条の11)。設備を変えたとき、材料を変えたとき、手順を変えたとき。

整理すると、こうなります。

リスクアセスメントKY活動
やるのは会社(事業者)現場(自分たち)
やるタイミング変わったとき作業の直前(毎日)
対象の広さ職場ぜんぶを網羅的に今日やる作業だけ
法律の定めはある(努力義務)ない

危険の洗い出しは、左側の仕事です。

毎朝5分の集まりで職場ぜんぶの危険を新しく見つけようとするから、行き詰まる。そもそも担当が違うんです。

ちなみに、「ヒヤリハットを出せと言われるがネタがない」で困っている方は、そちらは別に書いています。探す場所を変えると出てきます。

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ヒヤリハットのネタがないとき|ヒヤリとしていなくても書けます

毎月出せと言われても、毎月ヒヤリとするわけじゃない。国の通達は、ヒヤリとしていない出来事も同じ列に並べていました。

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じゃあKYは何をする場なのか|「今日・この作業・自分」に絞る

厚生労働省が出しているKY活動の説明を読むと、対象がはっきり書かれています。

まず、業務を始める前に、イラストシートを使って、あるいは現場で実施したり、させたりして、その業務に「どんな危険がひそんでいるか」を職場でサッと話し合い、「これは危ないなぁ」と危険のポイントについて合意します。

厚生労働省『社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル』第3章 KY活動(太字は筆者)

※社会福祉施設向けにまとめられた資料ですが、KY活動そのものの説明は業種を問わず共通です。

「業務を始める前に」「その業務に」。

職場ぜんぶ、ではありません。これからやる、その作業です。

そしてこの資料は、KY活動を「トップの経営姿勢」「管理者による実践」と並ぶ「職場自主活動」に分類しています。法律で決まっている手続きではなく、現場が自分たちのためにやる活動という位置づけです。

なので、絞る軸は3つで足ります。


  • 軸1

    今日、自分が担当する作業はどれか
    「工場の危険」ではなく「今日、自分が触る機械」。ここまで絞ると、書くことは自然に変わります。同じ設備でも、今日やるのが段取り替えなのか、通常運転の監視なのかで、危ないところは違います。


  • 軸2

    今日の段取りで、いつもと違うところはあるか
    材料が変わった、応援が入った、いつもより本数が多い、朝から設備の調子が悪い。「今日だけ」の事情は、毎日あります。


  • 軸3

    今日の自分の状態はどうか
    寝不足、体調、慣れていない作業が入っている。これは他の誰も書けません。 KYが「自分の話」になるのは、ここだけです。


3つのどれも、昨日と同じなら同じでいいんです。 同じでいいと分かっていることと、考えずに同じことを書くのは、別のことです。

「指差呼称ヨシ」に意味はあるのか

KYの最後は、たいてい「今日の行動目標」と「指差呼称の項目」を決めて終わります。正直、ここがいちばん形だけになりやすい。声を出して指を差す、あれです。

これについては、調べられたデータがあります。

鉄道総合技術研究所の研究者らが1996年に発表した室内実験です。24人に、画面に出る色に対応したボタンを押す作業をしてもらい、指差呼称をする条件としない条件で、間違いの数を比べています。

条件1回でも間違えた人(24人中)
指差も呼称もしない15人
指差だけ12人
呼称だけ10人
指差呼称をする5人

もうひとつ、別の実験もあります。「合図につられて、確認しないまま体が動いてしまう」タイプの間違いを調べたものです。

指差呼称をした12人は、誰も間違えませんでした。しなかった12人のうち5人が、押してはいけない場面でボタンを押しています。

これ、現場でいうと「いつもの流れで、つい手が動いた」です。心当たりがある人、多いんじゃないでしょうか。

ここは正直に書きます


これは実験室で行われたものです。論文自身が「この作業課題は現実の作業を実験室内にシミュレートしたものではない」と断っています。被験者も鉄道総研の職員24人で、工場の作業者ではありません。

なので、「指差呼称をすれば事故が防げます」とは言えません。 言えるのは、「確認の動作を足すと、間違いが減る傾向は確かめられている」というところまでです。

それでも、唱和しているあの動作には、一応の根拠があると分かるだけで、少し見え方が変わると思います。

そのうえで、もし変えられるなら「指差呼称の徹底」ではなく、指す対象を書くといいです。「バルブAが閉まっているか」「治具のクランプ」のように。何を指すか決まっていないと、動作だけが残ります。

うまく言えないのは、あなたのせいじゃない

「そもそも、何を言えばいいのか分からない」

これ、能力の問題ではなくて、受けた教育の差です。

労働安全衛生規則の第40条を見てください。職長(現場を直接指導・監督する人)が受ける教育の中身と時間が決まっています。

教育の科目時間
作業手順の定め方/労働者の適正な配置の方法2時間
指導及び教育の方法/作業中における監督及び指示の方法2.5時間
危険性又は有害性等の調査の方法/その結果に基づき講ずる措置/設備・作業等の具体的な改善の方法4時間
異常時における措置/災害発生時における措置1.5時間
設備・作業場所の保守管理の方法/労働災害防止についての関心の保持 ほか2時間

「危険の調査の方法」に、4時間。 いちばん長い枠が割かれています。しかもこの教育は、製造業でも実施する決まりになっています(労働安全衛生法60条・同法施行令19条。※たばこ製造業や繊維工業の一部など、対象から外れている業種もあります)。

つまり、KYを仕切っている人は、危険の見つけ方を4時間かけて教わっているわけです。

そして——ここが大事なところですが——参加している側に、同じ教育を受ける決まりはありません。

だから、教わっていない人が、教わった人と同じ目線で発言できないのは当然なんです。「意識が低い」の話ではない。

これが分かると、聞き方も変わります。

そのまま使える言い方


「〇〇さんはどこを見て危ないと思ったんですか。自分だと気づけなくて」

「これ、危ないと思う理由を一回教えてもらっていいですか。次から自分でも見られるようにしたいので」

「分かりません」ではなく「見方を教えてください」。 進行役にとっても、これは嫌な質問ではないはずです。

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明日、ひとつだけできること

長く書きましたが、明日やることは1つで十分です。

KYシートを書く前に、「今日、自分がやる作業」を1つだけ口に出してみてください。

「今日は3号機の段取り替えをやります」でいいです。

そこまで絞ると、書く内容は勝手に変わります。「挟まれ・巻き込まれに注意」ではなく「型を外すときに手が入る」になる。危険が具体的になるのは、作業を具体的にしたときだけです。

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それでも、形だけの職場のこと

正直に書きます。ここまでの話をやっても、進行が5分で終わる決まりになっていて、誰も何も言えない場というのは、あります。

ただ、それをもって「この職場はダメだ」と決めるのも、少し早いと思っています。KYの時間を長く取れば、その分ラインは止まります。人と時間に余裕がない職場ほど、5分で終わらせるしかない。 悪意ではないことのほうが多いです。

そのうえで、ひとつだけ。

もし「そのうち職長を」「リーダーをやってみないか」という話が出ているなら、危険の見方は、その手前で触れておくとかなり楽になります。

さっき見たとおり、リスクアセスメントは職長教育の科目です。いずれ受けることになるものなので、先に入口の部分だけでも知っていると、当日の4時間の入り方が変わります。

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今の職場が悪いという話ではありません。 そして急ぐ必要もありません。 職長教育そのものは会社が実施するものなので、その順番が回ってくるのを待つ、で全く問題ないです。 ここは「先に触れておきたい人だけ」の選択肢として置いています。

よくある質問

KY活動は法律で決まっているんですか?

労働安全衛生法にも、施行令にも、規則にも、「危険予知」という言葉は出てきません。 会社や業界が自主的に続けてきた活動です(厚生労働省の資料でも「職場自主活動」に分類されています)。

ただ、やる意味がないという話ではありません。 国の通達には、会社がリスクアセスメントをするときの参考資料として「危険予知活動(KYT)の実施結果」を挙げた一文があります。朝に出た話は、そこで拾われる建て付けになっているということです。

同じ人しか喋りません。これは問題ですか?

よくある状態だと思います。国の指針には「安全衛生委員会等の活用等を通じ、労働者を参画させること」と書かれていて、参加する人が広がることは、制度の側も想定していることです。

とはいえ、明日から急に発言する必要はありません。 さっきの「見方を教えてください」を1回聞くだけでも、あなたはもう参加しています。

KYシートに書いたことと、実際にやる作業が違います。

それはシートが先に決まっているからだと思います。前日までに作る運用だと、どうしてもそうなります。

この場合、朝の時点で「今日はこれが変わりました」と一言足すだけで、書類と現場のズレは埋まります。書き直さなくていいです。変わったことを口に出す、それだけで十分です。

「KY」と「KYT」は違うものですか?

KYT=危険(K)予知(Y)訓練(Training) の略で、もともとは訓練を指します。職場で実際にやるのがKY活動、という区別です。

ただ、厚生労働省の資料自身が「ハッキリ区別することはできません」と書いています。毎日の短い話し合いは、実務であると同時に訓練でもある、という位置づけです。毎日やるのは訓練だから、と考えると、同じ内容が続くことへの見方も少し変わると思います。

まとめ

長くなったので、3行にします。

この記事のまとめ


1. KYは「新しい危険を見つける場」ではない。 網羅的な洗い出しは会社のリスクアセスメントの仕事(安衛法28条の2)。毎日同じ内容になるのは仕組み上あたりまえ

2. KYがやるのは「今日・この作業・自分」に絞ること。 絞る軸は3つ(今日の担当/今日の段取り/今日の自分の状態)

3. うまく言えないのは、教わっていないから。 進行役は「危険の調査の方法」に4時間の教育を受けている(安衛則40条)。「見方を教えてください」と聞いていい

明日できることは、「今日、自分がやる作業」を1つ口に出すことだけで十分です。

とりあえず明日、自分の担当だけ言ってみます。
ハル
アヴァン
それで十分です。広げるんじゃなくて、絞るほうなので。

KYは、広げる活動ではありません。絞る活動です。

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この記事の出典


・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条の2・第60条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057

・労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)第19条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347CO0000000318

・労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第24条の11・第40条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032

・危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成18年3月10日 指針公示第1号)/同 施行通達(平成18年3月10日 基発第0310001号)

・厚生労働省『社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル』第3章 KY活動
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/1911-1_2e.pdf

・芳賀繁・赤塚肇・白戸宏明(1996)「『指差呼称』のエラー防止効果の室内実験による検証」産業・組織心理学研究 第9巻第2号 107-114ページ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/9/2/9_107/_article/-char/ja/

※情報は2026年8月23日時点のものです。法令は改正されることがあります。自分の職場のKY活動の運用については、職場の安全衛生担当者にご確認ください。

  • この記事を書いた人

アヴァン

はじめまして、アヴァンです。電子部品系の工場で働く、現役の製造業ワーカーです。ミスが怖い夜、辞めたくなる朝、なかなか覚えられなくて落ち込む日——現場で私自身がつまずいたことや、そこで見つけた小さなコツを、同じ目線で書いています。えらそうに教える場所ではなく、あなたが明日もうちょっと楽になるための「保健室」でありたいと思っています。

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