結論から言います。意味はあります。
ただし、「手当がつくかどうか」とは、まったく別の話です。ここが混ざったままだと、ずっとモヤモヤしたままになります。
乙4を取った。でも職場で使う場面がない。給料明細を見ても、それらしい手当は付いていない。
「……これ、意味あったのかな」
そう思ったこと、ありませんか。
この記事で分かること
この記事は、乙4を取ったあとの話だけをします。取り方も、難易度も、勉強法も書きません。あなたはもう持っているからです。
代わりに、その免状で、法律上あなたに何が許されたのかを、消防法の条文で確かめていきます。
「取ったけど使っていない」は、あなただけではありません
まず、これを先に言わせてください。
同じことで悩んでいる人は、けっこういます。
Q&Aサイトを見ると、こんな声が並んでいます。
- 「危険物を扱う職業に就くつもりがない限りは役に立たないでしょうか」
- 「仕事には全く使わない内容だが、手当が出るために受験している」
- 「取った直後は現場で特別に評価されることもなく、"持っていて当たり前"という扱いだった」
読んでいて、少しホッとしませんか。同じことを思っている人は、ちゃんといます。
そして、ここからが大事なところです。
「取ったあとに何ができるのか」を説明している記事が、そもそも少ないんです。
試しに「乙4」で検索してみてください。出てくるのは、取得のメリット、難易度、勉強法、おすすめの参考書。ほとんどが「これから取る人」に向けて書かれています。
つまり、あなたが答えを見つけられなかったのは、あなたのせいじゃない。探す場所に、答えが置かれていなかっただけです。
そして、もうひとつ。
職場で、だれがどの資格を持っているか。これ、ちゃんと把握されていることって、あまりないんですよね。
聞いてはじめて「え、持ってたの」と分かる。掲示されているわけでもないし、朝礼で読み上げられるわけでもない。
つまり、使う場面が来ないのは、あなたが黙っているからではありません。そもそも「聞かれる仕組み」がないだけ、ということも多いんです。


その免状は、会社のものではありません
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
消防法には、こう書いてあります。
危険物取扱者免状は、危険物取扱者試験に合格した者に対し、都道府県知事が交付する。
消防法 第13条の2 第3項
短い条文ですが、大事なことが2つ入っています。
1つめ。「合格した者に対し」交付される。
つまり、免状はあなた個人に渡されたものです。会社が持たせたものでも、会社に属するものでもありません。
2つめ。交付するのは「都道府県知事」。
会社ではありません。だから、あなたが会社を辞めても、免状はあなたのところに残ります。
これは、資格の世界では珍しいことではありません。たとえばフォークリフトの技能講習修了証も、同じ構造をしています。あちらは労働安全衛生規則に「修了した者に対し」交付すると書かれていて、やはり本人のものです。
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フォークリフトの資格って、取る意味ある? 会社に言われて取った私の答え
「フォークリフト、取っといて」と言われて取った資格に、意味はあるのか。修了証は会社のものではなく、あなたに交付されたものです。会社を出た日から効いてくる理由を、条文で確かめます。
会社に言われて取った資格でも、自分で取った資格でも、そこは変わりません。
この記事の芯
「使っていない」ことと、「持っていない」ことは、違います。
使う場面がなかったのは事実かもしれない。でも、あなたが持っているものは、消防法があなた個人に与えた権限です。それは、いま職場で出番があるかどうかとは関係なく、あなたの側にあります。
乙4で「できること」は、法律にこう書いてあります
では、その権限の中身です。
まず、乙種の免状で扱えるものは、こう決まっています。
…乙種危険物取扱者にあつては当該乙種危険物取扱者免状に指定する種類の危険物とし…
危険物の規制に関する規則 第49条
「免状に指定する種類」というのが、乙4なら第4類です。
第4類は「引火性液体」で、消防法の別表第一に、こう並んでいます。
- 特殊引火物
- 第一石油類
- アルコール類
- 第二石油類
- 第三石油類
- 第四石油類
- 動植物油類
ガソリンや灯油、軽油が入るのはイメージしやすいと思います。
ただ、アルコール類が入っているところは、意外と見落とされがちです。あとでもう一度触れます。
そして、乙4を持っている人には、もう1つできることがあります。
製造所、貯蔵所及び取扱所においては、危険物取扱者以外の者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱つてはならない。
消防法 第13条 第3項
立会いです。
資格を持っていない人が危険物を扱うとき、あなたが立ち会えば、その作業が成り立つ。逆に言えば、あなたがいないと成り立たない場面があるということです。
立会いができるのは、甲種と乙種だけです
ここ、あまり書かれていないので、はっきり書いておきます。
さっきの条文を、もう一度よく見てください。
「甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ」
「丙種」が入っていません。
規則49条のほうも同じで、立ち会うことができる主体として書かれているのは、甲種と乙種だけです。丙種については「取り扱うことができる危険物」の話しか出てきません。
つまり、こういうことです。
| 免状 | 危険物を取り扱う | 無資格者に立ち会う |
| 甲種 | すべての類 | できる |
| 乙4 | 第4類 | できる |
| 丙種 | ガソリン・灯油・軽油 など | できない |
丙種でも、ガソリンや灯油を扱うことはできます。でも、立会いはできません。
「乙4は立会いができる」とだけ書かれていると、なんとなく流してしまいます。でも、できない資格があるからこそ、できることに意味があるんですよね。
あなたが持っているのは、そちら側の免状です。
ただし、立会いは「そばにいる」ことではありません
ここは、いいことばかり書くわけにいかないので、正直に書きます。
ここは正直に書きます
立会いには、義務がついてきます。
甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者は、危険物の取扱作業の立会をする場合は、取扱作業に従事する者が…技術上の基準を遵守するように監督するとともに、必要に応じてこれらの者に指示を与えなければならない。
危険物の規制に関する政令 第31条 第3項
「監督する」「指示を与える」と書かれています。
ただ横に立っていればいい、という話ではないんです。基準どおりに作業が進んでいるかを見て、必要なら口を出す。それが立会いです。
だから、乙4を持つというのは「ラクになる資格を手に入れた」ということではありません。責任を引き受けられる立場になった、というほうが近い。
……正直、これを重いと感じる人もいると思います。それは自然な感覚です。
ただ、責任を任せられる人にしか、任せられない仕事があるというのも、また事実です。使う場面が来たときに、あなたはその側に立てます。
「10年で失効」ではありません
これ、けっこう誤解されています。
「乙4は10年ごとに更新が必要」と書いてある解説を見かけますが、条文はそうなっていません。
規則には、こう書いてあります。
令第33条第5号の総務省令で定める免状の記載事項は、過去十年以内に撮影した写真とする。
危険物の規制に関する規則 第51条 第2項
10年に関わるのは、写真です。
免状に載せる写真は「過去10年以内に撮影したもの」でなければいけない。だから、10年経つ前に書換えの手続きをします(規則52条)。
ここだけ覚えて帰ってください
免状そのものに、有効期限はありません。
写真が古くなったからといって、あなたの資格が消えてなくなるわけではありません。
引き出しにしまいっぱなしの免状があるなら、写真の撮影日だけ、一度見てみてください。
慌てなくて大丈夫です。失効ではないので。
保安講習は、全員が受けるものではありません
もう1つ、混ざりやすいところです。
「危険物取扱者は講習を受けないといけない」と聞いたことがあるかもしれません。これも、対象が決まっています。
法第13条の23の規定により、製造所等において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者は、当該取扱作業に従事することとなつた日から一年以内に…講習を受けなければならない。
危険物の規制に関する規則 第58条の14 第1項
主語は「取扱作業に従事する危険物取扱者」です。
従事していれば受ける。従事していなければ、この義務は生じない。そういう書き方になっています。
周期はこうです。
- 従事することになった日から1年以内に1回目
- そのあとは、講習を受けた日以後の最初の4月1日から3年以内ごと
- (従事する前の2年以内に免状の交付を受けている場合などは、起算が変わります)
「持っているだけなのに、講習に行っていない。まずいのかな」と思っていた人。条文上は、従事しているかどうかが分かれ目です。
ただし、自分の作業が「従事」に当たるかどうかは、職場の状況で変わります。気になるなら、次の項目から確かめてみてください。
あなたの職場に、第4類はありますか
ここで、少し目線を変えます。
「うちの職場に危険物なんてないし」と思っている人。それが正しいこともあります。脅すつもりはありません。
ただ、「危険物」という名前で置かれているとは限らないというのは、知っておいて損がないと思います。
現場にありそうなもので言うと、洗浄用のアルコール、シンナー、塗料、接着剤、機械油。このあたりが第4類に当たることがあります。
ラベルに「危険物第4類」と書いてあることもあります。棚や保管庫に表示が出ていることもあります。
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中身の分からない容器をさわっていませんか|ラベルとSDSは、会社が見せるものです
職場にある「中身がよく分からない容器」。あれ、聞いていいやつです。小分けして保管する場合も、名称と人体に及ぼす作用を明示するのは会社側だと、法令に書かれています。
そしてもう1つ、知っておくといいのが合算の考え方です。
品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、…それぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が一以上となるときは、当該場所は、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす。
消防法 第10条 第2項
かみくだくと、こうです。
1種類ずつは少なくても、種類が複数あると、合わせて「指定数量以上」になることがある。
「うちは少ししか置いてないから」が、必ずしも成り立たないのはこのためです。
明日、休憩のついでにでも、保管庫の表示を見てみてください。それだけで、自分の職場と免状の距離が、少し具体的になります。
保安監督者が選任されているかは、届出で分かります
もう1つ、確かめられることがあります。
危険物保安監督者という役割です。
政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者で、六月以上危険物取扱いの実務経験を有するもののうちから危険物保安監督者を定め…保安の監督をさせなければならない。
消防法 第13条 第1項
ここで注目してほしいのは、主語です。
「所有者、管理者又は占有者は」。つまり、会社側です。
保安監督者を決めるのは、あなたの仕事ではありません。会社の義務として条文に書かれています。
そして、決めたら届出をすることになっています。
…前項の規定により危険物保安監督者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
消防法 第13条 第2項
なお、どの施設で選任が必要かは政令で決まっているのですが、「これ以外のもの」という除き方をしていて、正直、条文だけで自分の職場を判定するのは難しいです。だから、ここでは断定しません。
代わりに、あなたの側から確かめられることを書いておきます。
職場で確かめられること
職場に、危険物保安監督者の名前が掲示されていませんか。
もし選任されているなら、その人は「甲種または乙種+実務経験6か月以上」の人です。そして——あなたの免状も、その要件の入り口に立っています。
それでも「使う場面がない」なら
ここまで読んで、それでも「やっぱり、うちでは使わないな」という人もいると思います。
その感覚は、たぶん正しいです。扱っていない職場では、使う場面は来ません。
そのうえで、事実として3つ置いておきます。選ぶかどうかは、あなたの状況次第です。
1. 扱う職場では、はっきり効きます
ガソリンスタンド、タンクローリー、化学系の製造、塗装、燃料を扱う設備。こういう現場では、乙4は「あると助かる」ではなく「ないと回らない」場面があります。立会いができる人が必要だからです。
学生の頃の話ですが、ガソリンスタンドでアルバイトをする人が、時給が上がるからと乙4を取っていくのを見たことがあります。
あれは、なんとなく有利だから、ではありません。立会いができる人が必要な現場だからです。条文どおりの話が、そのまま時給に出ていたわけですね。
これは、転職を勧めているのではありません。そういう場所では価値が変わる、という事実の話です。
2. 甲種への入口になっています
消防法には、甲種の受験資格として、こう書かれています。
乙種危険物取扱者免状の交付を受けた後二年以上危険物取扱いの実務経験を有する者
消防法 第13条の3 第4項 第2号
大学で化学を修めていなくても、乙種+実務2年というルートが用意されています。いま使っていなくても、道自体は閉じていません。
3. 使わなくても、免状は残ります
さっきの13条の2第3項です。都道府県知事が、あなたに交付したもの。返す必要も、期限もありません。
「いま使っていない」は、「もう価値がない」ではないんです。
なお、「そもそも資格に手当がつくのか」が気になっている人は、こちらもどうぞ。同じ資格でも、職場によって手当の付き方が変わる話をしています。
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工場で"手当がつく"資格はどれ?|同じ資格が0円にもなる、外さない選び方
資格を取れば手当がつく、とは限りません。同じ乙4でも0円の会社があります。限られた時間とお金で外さないための、資格の選び方です。
まとめ:使っていないことと、持っていないことは違います
長くなったので、条文ベースで整理します。
| 疑問 | 条文はこう言っている |
| 免状は誰のもの? | 試験に合格した者に対し、都道府県知事が交付(法13条の2第3項)=あなたのもの |
| 乙4で何ができる? | 第4類の取扱いと、無資格者への立会い(法13条3項・規則49条) |
| 丙種との違いは? | 立会いができるのは甲種と乙種だけ(同上) |
| 立会いって何をするの? | 監督+必要に応じて指示(政令31条3項)=責任も伴う |
| 10年で失効する? | しません。10年は写真の話(規則51条2項・52条) |
| 講習は全員? | 取扱作業に従事する人が対象(規則58条の14) |
| 保安監督者を決めるのは? | 会社側の義務(法13条1項・2項) |
そして、この記事でいちばん言いたかったことを、もう一度。
この記事の結論
「使っていない」ことと、「持っていない」ことは、違います。
あなたが取ったのは、消防法があなた個人に与えた権限です。会社のものではないし、いま出番がないからといって、消えるものでもありません。
「意味あったのかな」と思っていたなら——意味がなかったんじゃなくて、何を持っているのかを知る機会がなかっただけだと思います。
そして、さっきの話をもう一度。職場では、だれがどの資格を持っているか、聞くまで分かりません。
もったいないな、と思います。
ただ、それは持っている人の落ち度ではありません。資格は、持っているだけでは職場から見えない。ただ、それだけのことです。
明日、1つだけできること
免状を引き出しから出して、写真の撮影日を見てみてください。
それだけです。
失効ではないので、慌てなくて大丈夫。ただ、自分が何を持っているかを、一度、手に取って確かめてみる。
そして、いつか職場で第4類の話が出たときに、「あ、それ自分の免状の範囲だ」と分かる。
それだけで、十分だと思います。
そこから始めるのが、いちばん確かだと思います。
この記事で参照した法令(すべて e-Gov法令検索の原文)
消防法(昭和23年法律第186号)第10条第2項、第13条第1項・第2項・第3項、第13条の2第3項、第13条の3第4項第2号、第13条の23、別表第一
危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)第31条第3項、第31条の2
危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号)第49条、第51条第2項、第52条、第58条の14
※法令の条文は引用していますが、個別の職場に当てはまるかどうかは状況によって変わります。判断に迷う場合は、所轄の消防署や、職場の保安担当に確認してください。