重量物は、何キロまでなら法律で決まっているのか。
先に答えを書きます。満18歳以上の男性が一人で持てる重さの上限を定めた条文は、労働安全衛生法・労働安全衛生規則・労働基準法・女性労働基準規則・年少者労働基準規則を全文検索しても、見つかりませんでした。
あなたが探して出てこなかったのは、調べ方のせいではありません。
ただし、18歳未満と女性には、罰則のある線が実際にあります。
持ち帰れる線は、この3つです。
- 18歳未満……年少者労働基準規則7条の表。満16歳以上満18歳未満の男性なら、断続作業30kg・継続作業20kg。その重量「以上」の重量物を取り扱う業務に就かせてはならない
- 女性……女性労働基準規則2条1項1号と3条の表。満18歳以上なら、断続作業30kg・継続作業20kg。こちらも「以上」
- 国の指針……「満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね40%以下となるように努めること」。ただしこれは事業者への努力義務で、法令ではありません。下回っていても、痛いときは痛い(後半で開きます)
この3つのどれにも当たらないのが、満18歳以上の男性です。
ここから先は、私の話も書きます。
「手が足りないので、それくらい一人で頑張れっと思われそうで、一人で無理して頑張った。」
これが、私が「一人では無理です」と言わなかったときのことです。そう言われたわけではありません。言われる前に、持ちました。


この記事で見るのは、2つだけです。
- 誰に、どの決まりが当たるのか
- 重さが分からないまま持つことを、国の文書はどう扱っているのか
そして、この記事が答えられないことも、先に出しておきます。
この記事は、あなたの職場に明日もう一人つけられるかには答えられません。 人を何人つけるかは、法令が決めている事柄ではないからです。
国の指針には「無理に1人で作業するのではなく、複数人で作業できるようにすること」と書かれています。私の職場では、二人持ちや台車、リフターに切り替えた経験はありません。
指針に書かれていることと、私の職場で起きていたこと。この2つを、そのまま並べて置いておきます。
- 満18歳以上の男性の上限は、5つの法令を全文検索しても出てきませんでした
- 誰に、どの決まりが当たるのか——持ち帰れる線は3つあります
- 「何キロまで」という数字は、昔ありました。2013年に無くなっています
- 法令が義務づけているのは「上限」ではなく「表示」でした
- 重さが分からないまま持つことを、国の文書はリスクとして書いています
- 指針には「体重のおおむね40%以下となるように努めること」と書かれています。読み方に3つ条件があります
- 指針が「労働者に対し、次の事項に留意させること」と書いている項目
- 「無理に1人で作業するのではなく」は、国の指針に書いてある言葉です
- 明日できること——いつも一人で持っている物に、重さが書いてあるかを一度だけ見る
- 最後に——動いたのは、根拠のほうではありませんでした
- よくある質問
満18歳以上の男性の上限は、5つの法令を全文検索しても出てきませんでした
結論から、もう一度。満18歳以上の男性について、「一人で持てるのは何キロまで」と重さの上限を定めた条文は、見つかりませんでした。
「見落としているんじゃないか」と思うところですよね。私もそう思って、条文の側から探し直しました。
探したのは、この5つです
e-Gov法令検索のデータで条文を丸ごと取ってきて、「重量」という語で機械的に検索しました。
- 労働安全衛生法(329条)
- 労働安全衛生規則(1,440条)
- 労働基準法(255条)
- 女性労働基準規則
- 年少者労働基準規則
結果は、上のとおりです。満18歳以上の男性の取扱い重量の上限を定めた条文は、この5つの中に無い。
ここで、不利なことも自分から書いておきます。言えるのは「この5つを全文検索した範囲では見つからなかった」までです。 日本の法令全体に存在しない、とまでは書けません。業種ごとの規則や条例まで全部つぶしたわけではないからです。
「重量」で引っかかったのは、上限ではなく「表示」の条文だけでした
もうひとつ、検索して分かったことがあります。
労働安全衛生法の全条文の中で「重量」を含むのは、35条の1本だけでした。 そしてその35条は、持てる重さの上限を決めた条文ではありません。
何を決めている条文なのかは、このあとの「表示」の見出しで書きます。ここでは、法令が重量について書いている場所が、上限ではなく別のところにあるという点だけ覚えておいてください。
誰に、どの決まりが当たるのか——持ち帰れる線は3つあります
「上限が無い」だけで帰らせると、たぶん意味がありません。実際にある線を、条文の形で置きます。
18歳未満には、年齢と性別で区切られた表があります
年少者労働基準規則7条(見出し=重量物を取り扱う業務)の本文です。
法第六十二条第一項の厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務は、次の表の上欄に掲げる年齢及び性の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる重量以上の重量物を取り扱う業務とする。
表はこうなっています(単位はキログラム/断続作業・継続作業の順)。
- 満16歳未満……女 12・8/男 15・10
- 満16歳以上満18歳未満……女 25・15/男 30・20
満18歳以上の欄は、ありません。 これはこの規則が手を抜いたのではなく、元になっている労働基準法62条1項が、満18歳に満たない者だけを対象にしているからです。18歳の誕生日で、この表の外に出ます。
女性には、妊娠しているかどうかを問わない表があります
女性のほうは、2つの条文を続けて読む必要があります。
まず女性労働基準規則2条1項1号。ここに重量の表そのものがありますが、この条の本文の名宛人は「妊娠中の女性」です。
法第六十四条の三第一項の規定により妊娠中の女性を就かせてはならない業務は、次のとおりとする。 一 次の表の上欄に掲げる年齢の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる重量以上の重量物を取り扱う業務
表は、満16歳未満 12・8/満16歳以上満18歳未満 25・15/満18歳以上 30・20(断続・継続の順)。
そして、この表を広げているのが同規則3条です。
法第六十四条の三第二項の規定により同条第一項の規定を準用する者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性以外の女性とし、これらの者を就かせてはならない業務は、前条第一項第一号及び第十八号に掲げる業務とする。
つまり、この重量の表は、妊娠しているかどうかにかかわらず、女性に及ぶ構造になっています。
ここで、読み方をひとつだけ。両方の表の文言は「同表の下欄に掲げる重量以上」です。 「超えたら」ではありません。満18歳以上の女性の継続作業なら、20kgちょうどでも、就かせてはならない側に入ります。
私が一人で持つように言われる物でいちばん重いのは、材料です。20キロくらいだと思います。
同じ20キロという数字が、片方では条文の線に触れる位置にあり、もう片方には線そのものが無い。これは誰が強いか弱いかの話ではなく、どの条文が、誰を名宛人にして書かれているかという話です。
満18歳以上の男性は、この3つのどれにも当たりません
罰則の側も見ておきます。
労働基準法119条は、62条・64条の3に違反した場合の罰則を定めています。 62条は年少者(18歳未満)の側、64条の3は女性の側。どちらも、違反したときの罰則が条文に書かれている線です。
満18歳以上の男性については、罰則の対象になる「上限」が、そもそも存在しません。
言い換えると、線が無いのは「持てるから」ではなく、線が引かれていないからです。この2つは、まったく別のことです。
「何キロまで」という数字は、昔ありました。2013年に無くなっています
検索すると、成人男性の上限として具体的な数字を書いたページが並びます。あれは、どこから出てきた数字なのか。
探したら、原典が出てきました。廃止された古い指針の本文です。
廃止された旧指針には、こう書かれていました
厚生労働省が検討会の資料として公開している、旧「職場における腰痛予防対策指針」(平成6年9月6日付け通達の別添)の本文です。別紙Ⅰ 2(1)。
満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う重量は、55kg以下にすること。 また、当該男子労働者が、常時、人力のみにより取り扱う場合の重量は、当該労働者の体重のおおむね40%以下となるように努めること。
数字は、ちゃんとありました。「あった」のです。
ひとつ注記を入れます。これは検討会資料として公開されている旧指針の本文で、1994年当時の通達そのもの(官報など)ではありません。PDF上の表記も、当時の省の名前ではなく現在の名前になっています。
その通達は、1行で廃止されています
今の指針を出した通達(平成25年6月18日 基発0618第1号)の末尾に、こう書かれています。
おって、平成6年9月6日付け基発第547号は、本通達をもって廃止する。
これが、あの数字の出どころが消えた一行です。
念のため、現行の指針と解説(56頁)を機械検索しました。旧指針にあった上限の数字は、1件も出てきません。 一文ごと無くなっています。
だから、その数字を今も目にすることは、おかしなことではないんです。昔あって、無くなった。 それだけです。ここで誰かを責めたいわけではありません。
法令が義務づけているのは「上限」ではなく「表示」でした
さきほど伏せた、安衛法35条の話です。
1トン以上の貨物を「発送しようとする者」への義務
(重量表示)第三十五条 一の貨物で、重量が一トン以上のものを発送しようとする者は、見やすく、かつ、容易に消滅しない方法で、当該貨物にその重量を表示しなければならない。ただし、包装されていない貨物で、その重量が一見して明らかであるものを発送しようとするときは、この限りでない。
ここは、読み方を2つ押さえてください。
①対象は「一の貨物で、重量が一トン以上のもの」。
②義務を負うのは「発送しようとする者」=送り出す側です。 事業者一般ではありません。
しかもこの条文には、罰則があります(安衛法119条1号)。上限には罰則が無いのに、表示にはある。 法令が重量について用意していたのは、そちらでした。
そして、ここが大事なところです。あなたの職場に入ってくる材料について、表示する立場にあるのは、それを発送した側です。
だから、材料に重さが書いていないのは、職場の手抜きではありません
私の話を書きます。
私の職場では、材料に重さは書いてありません。感覚と経験で判断していました。
条文の側から見ると、書いていないことには、法令の側の理由もあるということになります。35条が対象にしているのは1トン以上の貨物で、現場で一人が抱える材料は、そこに届きません。
ただし、ここも正直に線を引いておきます。「1トン未満は表示しなくていい」とは書きません。 言えるのは「1トン以上の貨物を発送する人には表示の義務がある。それ未満を対象にした表示の義務は、調べた範囲では見つからなかった」までです。
理由はもう1つあって、法令とは別に、国の指針が「できるだけ明示すること」と言っています。 次の見出しが、この記事の中心です。
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中身の分からない容器をさわっていませんか|ラベルとSDSは、会社が見せるものです
職場にある「中身がよく分からない容器」。あれ、聞いていいやつです。小分けして保管する場合も、名称と人体に及ぼす作用を明示するのは会社側だと、法令に書かれています。
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重さが分からないまま持つことを、国の文書はリスクとして書いています
ここが、この記事でいちばん渡したいところです。
指針は「取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること」と書いている
現行の「職場における腰痛予防対策指針」別紙Ⅰ 3(2) です。
取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること。
続く(3)には、こうあります。
著しく重心の偏っている荷物は、その旨を明示すること。
ちなみに、この別紙Ⅰ の冒頭には対象の定義も書かれています。
なお、重量物とは製品、材料、荷物等のことを指し、人を対象とした抱上げ等の作業は含まない。
「材料」が、名前で入っています。 あなたが毎日持っているものは、この文書が扱っている対象です。
なぜ「明示」なのか——解説にその理由が書かれています
この指針には、本文と一体として扱われる解説が付いています(通達が「解説部分(参考を除く。)は、本文と一体のものとして取り扱われたい」と書いています)。
その【解説】Ⅰ 3です。
実際の重量が、外見とは大きく異なり、誤った力の入れ方、荷物の反動等により、腰部に予期せぬ負担が発生し、腰痛を引き起こすことがある。取り扱う荷物の重量を表示することにより、労働者が、あらかじめ当該荷物の重量を知り、持ち上げる等の動作に当たり、適切な構えで行うことが可能となる。
読んでいて、手が止まりました。
国の文書が問題にしているのは「重すぎること」だけではないんです。 「実際の重量が、外見とは大きく異なり」——つまり、重さが分からないまま持つこと自体が、ここでは扱われています。
製造業向けのリーフレットに、こういう事例が載っています
厚生労働省と都道府県労働局・労働基準監督署が製造業向けに出したリーフレット(「製造業の事業者の皆さまへ 重量物取扱いなどによる腰痛を予防しましょう」)に、災害事例が載っています。その1件(食料品製造業・40代)です。
食料品が入ったバットを持ち上げて移動させようとしたところ、バットが予想より軽く、力んだ反動で腰を痛めた。(休業21日(見込み))
重すぎて、ではありません。「予想より軽く」です。
同じリーフレットには、こうも書かれています(対象年も母数も示されていません。 PDFの作成日から2015年ごろの資料と分かるだけです)。
製造業では、労働災害としての腰痛で、毎年600〜900人もの方が4日以上休業しています。年齢別では、40歳未満の方の被災率が高くなっています。
全産業の数も、置いておきます。厚生労働省の「令和6年 労働災害発生状況について」では、休業4日以上の死傷者が全産業で135,718人。事故の型で見ると「動作の反動・無理な動作」が22,218人で、転倒と「墜落・転落」と並ぶ上位3つに入っています(報道発表の本文は、これを「腰痛等の『動作の反動・無理な動作』」と書いています)。
⚠️ ただしこれは事故の型の集計で、腰痛の件数そのものではありません。製造業だけの内訳は、グラフからは業種と数字を対応づけられなかったので書きません。
ここでも、不利なことを自分から書いておきます。厚生労働省が「重要な課題」として名指ししているのは、保健衛生業と陸上貨物運送事業です。製造業は入っていません。 腰痛予防対策のページに、腰痛発生率(死傷年千人率)が全業種平均0.1に対して保健衛生業0.25、陸上貨物運送事業0.41と出ていて、その2業種の対策推進が重要だと書かれています。
それでも、製造業向けのリーフレットは別に出ています。 この2つは、どちらも消さずに置いておきます。
感覚と経験で判断していたのは、気合の話ではありませんでした
もう一度、私の話に戻ります。
材料に重さは書いていない。感覚と経験で判断していた。
これを、自分の勘を頼りにやっていた、くらいに思っていました。でも指針と解説の側から見ると、それは「あらかじめ当該荷物の重量を知り」「適切な構えで行う」ための情報が、手元に渡っていない状態です。
「重い」と言うときの「重い」の中身として、私が持っていたのは自分の感覚だけでした。重さの数字は、どこにもありません。そして感覚は、相手に見せられません。
だから勝ち目が無かったんだと思います。根性が足りなかったからではなく、見せられる物が1つも無かったからです。
ここは、医学の話はしません。書けるのは「国の指針と解説にこう書かれている」までです。
指針には「体重のおおむね40%以下となるように努めること」と書かれています。読み方に3つ条件があります
導入で3つめに挙げた線です。ここをきちんと開きます。
指針の本文(別紙Ⅰ 2(2))
現行指針の別紙Ⅰ 2(2) です。
満18歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う物の重量は、体重のおおむね40%以下となるように努めること。
はい、満18歳以上の男性について書かれた線は、ここにあります。法令ではなく、指針の側に。
読み方の条件が、3つあります
ここで数字だけ持って帰ると、たぶん逆向きに効きます。順に書きます。
①これは事業者への努力義務です。 別紙Ⅰ の冒頭が「重量物を取り扱う作業を行わせる場合には、事業者は、……次の対策を講ずること」と始まっていて、文末は「努めること」。あなたが守る数字ではありません。
②「おおむね」と書かれています。 きっちりした線ではありません。
③この線を下回っていても、痛いときは痛い。 40%を下回る重さだから大丈夫、という読み方は、この一文からは出てきません。
この3つを外して数字だけ渡すと、「計算したら、あなたは持てるはずです」という話にひっくり返ります。 それは、この記事がやりたいことの正反対です。
そして、指針は法令ではありません
ここも正直に書きます。
- この指針は、厚生労働省労働基準局長から「都道府県労働局長 殿」宛てに出された通達の別添です。事業者に直接義務を課す形式ではありません
- 通達が求めているのは「あらゆる機会を通じて周知を図るとともに」「関係事業場に対する指導を実施されたい」。つまり周知と指導です
- 安衛法と労基法の罰則の条文を全部見ましたが、どの号にも「指針」は出てきません
だから、「指針を守っていない=違法」とは書けません。罰則のある決まりではありません。
では、この40%はどこで効くのか
正直、ここで一度しらけると思います。私も、読んだときに同じことを思いました。
なので、使いどころを付け替えます。
この指針が効くのは、「会社に守らせる場面」ではありません。「重さが分からないまま持つのは、気合の問題ではない」と自分で確かめられる場面のほうです。
国の文書が、重量の線と、重さの明示と、その理由をわざわざ書いている。それが書かれている、という事実のほうを持ち帰ってください。 数字を武器にするのとは別の使い方です。
似たことを、姿勢のほうでも書きました。職場にいすはあるのに座れない、という話です。あちらは条文の義務が背骨にある話で、こちらは条文が無いことが背骨の話。同じ指針の、別の別紙を使っています。
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工場で座ったらダメ?|座りたいのは、やる気の問題じゃない。立ち作業のいすは"会社が備えるもの"と法令に書かれています(条件つき)
工場の立ち作業で足が限界なのに、「座りたい」と言えない。そんなあなたへ。立ち作業のいすは、安衛則615条で条件つきで会社が備えるものとされています。やる気とは別のものさしと、明日ひとりでできる1つを、現役の工場ワーカーが整理しました。
続きを見る
指針が「労働者に対し、次の事項に留意させること」と書いている項目
ここは副です。主役にしません。先に言っておくと、これは「こうすれば持てるようになる」という話ではありません。 原典にも、そうは書かれていません。
床から持ち上げる形
指針の別紙Ⅰ 4の柱書は、こうです。
労働者に対し、次の事項に留意させること。
その(3)。
床面等から荷物を持ち上げる場合には、片足を少し前に出し、膝を曲げ、腰を十分に降ろして当該荷物をかかえ、膝を伸ばすことによって立ち上がるようにすること。
解説側(【解説】Ⅰ 4)には、もう少し詳しく書かれています。膝を曲げてしゃがむように抱え、その姿勢から膝を伸ばすことで「腰ではなく脚・膝の力で持ち上げる」。両膝を伸ばしたまま上体を下方に曲げる前屈姿勢は取らないようにする、と。
そして、解説にはただし書が付いています。ここを落としません。
ただし、膝に障害のある者が軽量の物を取り扱う場合には、この限りでない。
国の文書自身が、全員に当てる形で書いていないんです。だからこの記事も、「この形にすれば大丈夫」とは書きません。
腰部保護ベルトは、1994年と2013年で向きが変わっています
これは、調べていていちばん驚いた箇所です。
廃止された旧指針(1994年)の別紙Ⅰ 6には、こう書かれていました。
腹圧を上げるため、必要に応じ、腰部保護ベルト、腹帯等を使用させること。
現行の指針(2013年)の本文 2(6)ハ は、こうです。
腰部保護ベルトは、個人により効果が異なるため、一律に使用するのではなく、個人毎に効果を確認してから使用の適否を判断すること。
そして解説(【解説】Ⅰ 5(1))には、こうあります。引用の限定部分を省略せずに書きます。
腰部保護ベルトの腹圧を上げることによる体幹保持の効果については、見解が分かれている。
使用させること → 一律に使用するのではなく。 19年で、向きが変わっています。
なので、この記事では腰部保護ベルトを勧めません。 同時に、「効果がない」とも書きません。どちらも、この原典から言えることではないからです。解説は、必要に応じて産業医(または整形外科医、産婦人科医)に相談することが適当だと書いています。
「無理に1人で作業するのではなく」は、国の指針に書いてある言葉です
導入で一度出した一文を、ここで全文に戻します。
指針の本文 2(3)ロ
特に、腰部に過度の負担のかかる作業では、無理に1人で作業するのではなく、複数人で作業できるようにすること。また、人員配置は、労働者個人の健康状態(腰痛の有無を含む。)、特性(年齢、性別、体格、体力、等)、技能・経験等を考慮して行うこと。(略)
「無理に1人で作業するのではなく」。 これは、持たされている側が心の中で思ったことではなくて、国が文書に書いている言葉です。
関連して、別紙Ⅰ 2(3) にはこうもあります。
(2)の重量を超える重量物を取り扱わせる場合、適切な姿勢にて身長差の少ない労働者2人以上にて行わせるように努めること。この場合、各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること。
ここも文末は「努めること」です。
指針と、私の職場
国の指針にはこう書いてあります。私の職場では、二人持ちや台車、リフターに切り替えた経験はありません。
この2つを、並べて置きます。どちらかがどちらかの原因だ、という話にはしません。私が確かめられる範囲を超えるからです。
だからこの記事は、「複数人にしてもらいましょう」とは書きません。台車を使いましょう、とも書きません。あなたがもう試して、使えないと分かっている可能性のほうが高いと思っています。
持たずに済ませる側の道具の話は、資格の記事に書きました。資格を取れば持たなくて済む、という話ではありませんが、会社に言われて取った紙が、自分の手元に残るものだった、という話です。
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フォークリフトの資格って、取る意味ある? 会社に言われて取った私の答え
「フォークリフト、取っといて」と言われて取った資格に、意味はあるのか。修了証は会社のものではなく、あなたに交付されたものです。会社を出た日から効いてくる理由を、条文で確かめます。
続きを見る
明日できること——いつも一人で持っている物に、重さが書いてあるかを一度だけ見る
やることは1つだけです。
明日できること
明日、自分がいつも一人で持っている物に、重さが書いてあるかを一度だけ見る。
——たいてい、書いていません。「書いていない」と分かることが、この行動の中身です。
変な提案に見えると思います。でも、これには中身があります。
国の指針は「取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること」と書き、解説は「あらかじめ当該荷物の重量を知り」と書いています。法令の表示義務は、1トン以上の貨物を発送する側に掛かっています。
つまり、あなたが重さを感覚で判断してきたのは、感覚で判断するしかなかったからです。
これは誰にも頼みません。会社を動かしません。許可も要りません。書いてあっても、書いていなくても、確かめた時点で終わります。
副:体重×0.4 を一度だけ計算して、自分の線を1つ持つ
さきほどの40%を、自分の体重で一度だけ計算してみる方法もあります。
ただし3つの条件とセットでなければ、これは渡せません。 ①事業者への努力義務であって、あなたの義務ではない ②「おおむね」である ③この線を下回っていても、痛いときは痛い。
計算して出た数字は、「ここまでは持てる」という線ではありません。国の文書が、重さと体の関係を数字で書いているという事実のほうです。
副:持ち上げる形を、指針の形にしてみる
床から持ち上げるときの形は、前の見出しに書きました。指針の柱書が「労働者に対し、次の事項に留意させること」=本人の動作として書かれている項目なので、明日から自分の手でできる側に入ります。
ただし、解説のただし書(膝に障害のある者が軽量の物を取り扱う場合には、この限りでない)とセットです。 そして、これで持てるようになるとも、痛みが防げるとも書きません。
最後に——動いたのは、根拠のほうではありませんでした
重さを見る話をしたので、その続きを1つだけ書きます。
私の話を、最後に1つだけ。
腰や肩が痛くなったことがあります。会社には言いませんでした。言ったのは、横で働いている同僚にでした。そのあと、違う作業をさせてもらったことがあります。
根拠を揃えて掛け合ったわけではありません。「この材料が重い」と、一つ言っただけです。
紙は、ありませんでした。条文も、指針の数字も、何も持っていませんでした。
だからこの記事が渡せるのは、ここまでです。動いたのは、根拠のほうではありませんでした。
そこから何を取るかは、あなたに渡します。言うか言わないかを決めるのは、あなたです。
ただ、「一人では無理です」と言えなかった理由の置き場所は、変えていいと思います。 自分の弱さの側ではなく、手元に見せられる物が1つも無かったことの側に。
言えなかったのは、言う勇気が無かったからではないと思います。「重い」を示せる物が、手元に一つも無かったからです。
よくある質問
Q1. 成人男性にも上限の数字があると聞きました。
昔はありました。廃止された旧指針(平成6年の通達の別添)に、満18歳以上の男子労働者について具体的な数字が書かれていました。それが2013年の改訂で一文ごと無くなり、元の通達も「本通達をもって廃止する」と1行で廃止されています。現行の指針と解説(56頁)を機械検索しても、その数字は出てきません。 今もその数字を載せたページはありますが、昔あった数字なので、見かけること自体は不思議ではありません。
Q2. 女性には制限があるのに、満18歳以上の男性に無いのはなぜですか。
能力の話ではなく、どの条文が誰を名宛人にしているかという構造の話です。女性の側は労働基準法64条の3を受けて女性労働基準規則2条・3条が表を定め、18歳未満の側は労働基準法62条を受けて年少者労働基準規則7条が表を定めています。この2つの条文には、違反したときの罰則が労働基準法119条に書かれています。満18歳以上の男性を名宛人にした重量の表は、調べた5つの法令の中にありませんでした。無いのは「持てるから」ではなく、線が引かれていないからです。
Q3. 指針を守っていない会社は違法ですか。
違法とは言えません。 指針は、厚生労働省労働基準局長が都道府県労働局長に宛てて出した通達の別添で、法令そのものではありません。通達が求めているのは周知と指導です。安衛法・労基法の罰則の条文にも「指針」は出てきません。重量の線(40%・2人以上)も、文末はすべて「努めること」です。
Q4. 材料に重さが書いていないのは法令違反ですか。
労働安全衛生法35条は、1トン以上の貨物を発送しようとする者に重量の表示を義務づけています(違反には罰則あり)。それ未満の物を対象にした表示の義務は、調べた範囲では見つかりませんでした。ただし「1トン未満は表示しなくていい」とも書きません。国の指針が別に「取り扱う物の重量は、できるだけ明示すること」と書いているからです。
⚠️ 痛みが強いとき、何日も続くときは、自分で判断せずに医療機関で診てもらってください。職場に産業医や健康相談の窓口があれば、そこに話すのも方法のひとつです。この記事は、原因や受診の要否を判断できる記事ではありません。
この記事の出典
・労働基準法(昭和22年法律第49号)第62条・第64条の3・第119条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
・女性労働基準規則(昭和61年労働省令第3号)第2条・第3条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/361M50002000003
・年少者労働基準規則(昭和29年労働省令第13号)第7条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/329M50002000013
・労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第35条・第119条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000057
・職場における腰痛予防対策指針及び解説(平成25年6月18日 基発0618第1号 別添)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034mtc_1.pdf
・腰痛予防対策|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31158.html
・職場における腰痛予防対策の推進について(平成25年6月18日 基発0618第1号)|厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/content/contents/000938773.pdf
・職場における腰痛予防対策指針(平成6年9月6日付け労働基準局長通達別添/平成25年廃止)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002shqg-att/2r9852000002shvs.pdf
・製造業の事業者の皆さまへ 重量物取扱いなどによる腰痛を予防しましょう|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000099336_3.pdf
・令和6年 労働災害発生状況について|厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課
https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001543320.pdf
※法令や指針は改正されることがあります。読んだ時点の最新のものを、厚生労働省やe-Gov法令検索でご確認ください。
※リンクを付した10件のURLは、いずれも2026年10月4日に閲覧して確認したものです。