現場のコツ・あるある

工場で座ったらダメ?|座りたいのは、やる気の問題じゃない。立ち作業のいすは"会社が備えるもの"と法令に書かれています(条件つき)

工場で、いすに座ったらダメなのか。

先に答えを書きます。座りたいと思うのは、やる気の問題ではありません。 立ち作業のいすは、法令で、会社の側が備えるものとされています。ただし、条件つきです。

私も、座りたいと思ったことは何度もあります。でも、口に出したことはありません。言ったら、やる気がないと思われる気がしたからです。

設備が止まって、修理待ちになる。やることを探しても、もう無い。ライン脇に立ったまま、足の裏がじんじんしてくる。

そんな一日を終えて、この記事にたどり着いた人に向けて書いています。

座りたいって思うの、甘えなんですかね。なんだか、座っちゃいけない気がして。
ハル
アヴァン
わかります。私も同じでした。でもそれ、やる気とは別のところで決まる話なんです。

この記事で書くのは、次の3つです。

  1. 「座りたい」と思うのは、甘えなのか
  2. 立ち作業のいすについて、法令には何と書かれているのか
  3. 明日、ひとりでできること1つ

この記事は、「会社に言いましょう」という記事ではありません。

あなたの足の状態を判断する記事でもありません。

座りたいと思った自分を、やる気のものさしで測るのをやめる。 そのための材料を並べる記事です。足や腰の痛みが続くときは、医療機関で診てもらってください。

結論:座りたいのと、やる気は別の話です

まず、全体を3行で書きます。

この記事の結論


・労働安全衛生規則615条は、立ち作業のいすについての条文です。「しばしばすわることのできる機会のあるとき」には、事業者がいすを「備えなければならない」、としています
・ただし条件つきです。国会でも厚生労働大臣が「必ずしも座って作業することを求めている規定ではございません」と答えています
・どんな作業が当てはまるかは、作業によって変わります。あなたが確かめるのは、自分の一日に"座れる機会"があるかどうか。それだけでいいんです

つまり、座れるかどうかを決めるものさしは、あなたの気合いではありません。作業のなかに、座れる機会があるかどうかです。

ここから、ひとつずつ見ていきます。

「座りたい」と思うのは、甘えではありません

足が限界になって、夜にスマホで調べる。そういうとき、同じことを聞いている人は、ちゃんといます。

2021年に、工場で働く人がYahoo!知恵袋で、こんな質問をしていました。

この仕事は凄く楽しくて辞めたくないのですが、そろそろ限界レベルで足が痛いです

Yahoo!知恵袋・2021年5月26日の質問より

仕事は好き。辞めたくない。でも、足が痛い。

この質問には、筋力や体幹が弱いからでは、という見立てが示されました。そのうえで「鍛えるか慣れるかのどちらか」という回答が返っていました。質問した人の返事は、「鍛えてみます」。

回答した人を責めるつもりはありません。親切で書いたんだと思います。

ただ、この流れを読んで、私は少し胸が詰まりました。


「鍛えるか慣れるか」が返ってくると、足の痛みまで"自分の弱さ"の話になっていく。

座りたいと思った自分を、もう責めている人なら、なおさらです。二重に、自分を責めることになります。

でも、座りたいと思うことと、やる気があるかどうかは、別のものさしで測る話です。

足が痛いのは、あなたが仕事をなめているからではありません。長く立ち続ける作業は、足腰に負担がかかります。このあと紹介する国の資料にも、そう書かれています。

まずは、ここだけ持って帰ってもらえたらと思います。

いすは、ある。座るのは「検査とパソコンのとき」くらいなんです

先に、私の職場の話をさせてください。

私の職場には、座れるいすがあります。ただ、座るのは検査やパソコンを使うときくらいです。

だから、この記事は「会社がいすを置いてくれない」という話ではありません。

いすは、ある。でも、座るのは「決まった作業のとき」だけ、という気がしている。 その話です。

あなたの職場も、そうじゃないでしょうか。検査台には丸いすがある。事務のパソコンの前にもある。でも自分の持ち場で、待っている時間に座るのは、なんとなく違う気がする。

実は、耳栓でも同じことが起きていました。物があることと、使えることは別。 そんな話を、騒音の記事にも書いています。

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誰にも「立て」とは言われていない。それでも、ほとんどの人が立っている

ここは、正直に書きます。

私は職場で、「立っているほうが効率がいい」という話を聞いたことがありません。「立っていろ」と言われたこともありません。

それでも、座りませんでした。

では、「やる気がないと思われる」と思ったとき、誰に思われると考えていたのか。

あらためて振り返ると、上司だけでも、隣の人だけでもなく、全部でした。自分の中の声も含めて。

そして、修理待ちで機械が止まっているときも、現場で座っている人はあまりいません。基本が立ち仕事なので、ほとんどの人が立っています。

つまり、私が立ち続けていた理由は、決まりではなく空気でした。

もしかしたら隣の人も、同じことを考えて立っているのかもしれません。本当のところは、分かりませんが。

ただ、ひとつ言えるのは、空気は誰かの悪意でできているわけではないということです。上司が悪いわけでも、同僚が悪いわけでもない。そして、座れないあなたが弱いわけでもありません。

「休まない人=真面目」という空気の話は、有給の記事にも書きました。

立ち作業のいすは、法令で「備えなければならない」と書かれています

では、立ち作業のいすについて、決まりには何と書かれているのか。

労働安全衛生規則という厚生労働省の省令に、こういう条文があります。

(立業のためのいす)
第六百十五条 事業者は、持続的立業に従事する労働者が就業中しばしばすわることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるいすを備えなければならない。

労働安全衛生規則 第615条/e-Gov法令検索

「持続的立業」は、立ち続ける仕事のことです。

労働安全衛生規則は、昭和47年(1972年)にできた省令です。この条文は、その中の「休養」という章に置かれています。立ち作業のいすは、"会社の側が備えるもの"として、決まりの中に書かれているわけです。

もうひとつ、すぐ近くの条文と並べると、書き方の違いが分かります。

条文何について書き方
613条休憩の設備「設けるように努めなければならない」
615条立業のためのいす「備えなければならない」

613条の休憩の設備は「努めなければならない」。努力義務と呼ばれる書き方です。

615条の立ち作業のいすは「備えなければならない」。こちらは、条件つきの義務です。

ただ、ここで早合点しないでほしいことがあります。「義務だから座れる」という意味ではありません。 条文には、条件がついているからです。

ただし条件があります:「しばしばすわることのできる機会のあるとき」

615条の条件は、この部分です。

就業中しばしばすわることのできる機会のあるときは

「しばしば」「すわることのできる機会」。どちらも、はっきりした時間や回数で決められているわけではありません。

では、あなたの作業はこれに当てはまるのか。

この記事では、決めません。 決められない、が正直なところです。

たとえば、修理待ちで機械が止まっている時間。これが615条のいう「機会」になるのかどうか。はっきり書いた公的な資料は、調べた範囲では見つかりませんでした。

だから、ここは言い切りません。言い切れないことを言い切ると、あなたが明日それを信じて動いたときに、困るのはあなたのほうだからです。

国の答弁は「必ずしも座って作業することを求めている規定ではございません」

この条文について、2024年5月29日の衆議院厚生労働委員会で、厚生労働大臣がこう答えています。

就業中にしばしば座ることができる機会のあるときに座ることができる椅子を備えるよう事業者に義務づけをしているものでありまして、必ずしも座って作業することを求めている規定ではございません。

2024年5月29日 衆議院厚生労働委員会・国会会議録 発言186

別の答弁では、こうも言っています。

座って仕事ができるかどうかについては個々の事業場の環境や作業内容によるものと承知をしている

同・発言184

「個々の事業場の環境や作業内容による」。 国も、どの作業なら座れる、と一律には決めていないということです。

もうひとつ、厚生労働省のページには、立つ側の良いところも書かれています。

業務に集中しやすいといった点や、とっさの際に動きやすいなどのメリットもありますが、長時間による立ち作業は足腰への負担が大きい等のデメリットもあります

厚生労働省「立ち作業の負担軽減対策の取組事例紹介」

立って働くことにも、理由はある。だから、立っている職場が間違っている、という話ではありません。

そのうえで、立ち続けるのは足腰に負担がかかる。それも国が書いています。

「それ、レジの話でしょ」——国の事例に、工場はありません

ここは、先に言っておきます。

厚生労働省の「立ち作業の負担軽減対策の取組事例紹介」というページがあります。ページの冒頭には、立ち作業の例が挙がっています。「『工場のライン作業』や『スーパーの会計作業』、『工事現場における交通誘導作業』など」。工場も入っています。

でも、載っている6つの事例の内訳は、こうです。

業種事例の数
小売3
宿泊1
警備1
その他1
製造業0

製造業の事例は、ひとつもありません。

読みながら「結局スーパーとかホテルの話でしょ」と思った人。その感覚は、数字のとおりです。

ただ、工場が対象外かというと、そうでもありません。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年)には、立ち作業の例として、はっきりこう書かれています。

機械・各種製品の組立工程やサービス業等に見られるような立ち作業

職場における腰痛予防対策指針 別紙 II 立ち作業

「組立工程」が、名指しで入っています。

そして、こう続きます。

他作業との組合せが困難であるなど、立ち作業が長時間継続する場合には、椅子を配置し、作業の途中で腰掛けて小休止・休息が取れるようにすること。

職場における腰痛予防対策指針 別紙 II 立ち作業 3(1)

国は、組立工程の立ち作業の途中で座る場面を、想定して書いているということです。

事例集については、「必ずしも座って作業することを求めている規定ではございません」と答えた同じ発言の中で、大臣が、まずは立ち作業が多いと考えられる小売業の取り組みを聞き、そのうえで事例集が作れるか検討する、と述べています。工場が対象外なのではなく、小売業が先だった。工場の事例はまだ無い、と読むのが近いと思います。

ただ、この指針は会社に向けて書かれた文書です。「指針にあるから、明日から座れる」という読み方はしません。 国がどういう職場を想定しているのか。それを知っておくための材料です。

いすを置いた職場でも、最初は座れなかった人がいる

事例集の中に、ひとつ、読んでいて手が止まった言葉がありました。

スーパーのダイエーの事例です。小売業の、レジの話です。 工場の話ではありません。

いすを置いたあとの、働く人の声として、こう書かれていました。

最初は立って接客するという私自身の固定概念と、お客さまからのクレームが怖く、座ることを躊躇しました

厚生労働省「立ち作業の負担軽減対策の取組事例紹介」ダイエーの事例より

この人は、そのあと座れるようになったと続けています。

業種も、仕事の中身も違います。

それでも、いすが置かれた職場でも、最初は座れなかった人がいた。 そこだけは、私たちと同じだと思いました。

座れないのは、あなただけの弱さではありません。

ずっと座るのも、負担になります

ここで、ひとつ付け加えておきます。

「じゃあ、ずっと座っていればいいのか」というと、そう単純でもないようです。

同じ腰痛予防指針の解説には、立ち作業について、こう書かれています。

長時間立位姿勢を保つことにより、椎間板にかかる内圧の上昇のほかに、脊柱支持筋及び下肢筋の筋疲労が生じる。座ったまま作業できるような椅子を使用すると、脊柱支持筋及び下肢筋の緊張を緩和し、筋疲労を軽減するのに効果がある。長時間、椅座位姿勢を続けると背部筋の疲労によって前傾姿勢になり、また、腹筋の弛緩、背柱の生理的彎曲の変化や大腿部圧迫の影響も現れる。

職場における腰痛予防対策指針 解説 II 立ち作業

腰にかかる負荷については、こうも書かれています。

腰椎にかかる力学的負荷は、立位姿勢より椅座位姿勢のほうが大きいため、立位姿勢に椅座位姿勢を組み合わせる場合には、腰痛の既往歴のある労働者に十分配慮する必要がある。

同・解説 II 立ち作業

立ち続けるのも負担。座り続けるのも、腰には負担。

国は、立つか座るかのどちらかではなく、組み合わせる前提で書いています。

体の状態は人によって違います。足や腰の痛みが続くときは、自分で判断せずに、医療機関や産業医に相談してください。

明日できること:探しても無かった時間だけ、数えてみる

ここまで読んで、「で、自分は何をすればいいの」と思ったかもしれません。

座ることを、明日の宿題にはしません。 それができたら、たぶんこの記事は読んでいないですよね。

明日やってほしいのは、ひとつだけです。

明日できること


やることを探すのは、いつもどおりでいい。
探しても無くて、立って待っていた時間があったら、その回数だけを数える。
ポケットのメモでも、スマホのメモに正の字でもかまいません。

修理待ちで機械が止まる。拭き掃除をする。部品を補充する。それも終わって、やることが無くなる。

その「無くなったあと」の時間だけを、1回、2回と数えてください。

探すのをやめなくていいです。いつもどおり、やれることは探してください。それはあなたの真面目さなので、そのままでいい。探しても残った時間。それだけを数えます。

数えるのは、あなたのやる気のなさではありません。615条がいう「すわることのできる機会」の、候補です。

それが「機会」に当てはまるかどうかの判定は、しなくていいです。国も「作業内容による」と言っているくらいなので、ひとりで決めなくていい。

0回なら、それも答えです

「うちのラインはずっと流れているから、待ちなんて無い」

そういう人もいると思います。数えてみて0回なら、それも立派な答えです。

あなたの作業は、もともと"座れる機会"が少ない作業なのかもしれない。それが分かるだけでも、座れないのを自分のやる気のせいにしなくて済みます。

1回でも10回でも、0回でも。

その数字は、自分を責める材料ではなく、自分の作業を説明する材料になります。

誰かに見せる必要はありません。もしいつか、誰かに話す日が来たら、そのときに使えばいい。話すかどうかも、決めなくていいです。

私がやっていたこと

最後に、私自身の話をひとつだけ。

立ち作業できついとき、私がやっていたのは、屈伸と、片足立ちを交互にすることでした。片方の足を休ませるつもりで、左右を入れ替えていました。

ちなみに腰痛予防指針には、立ち作業の小休止・休息のときに「下肢の屈伸運動やマッサージ等を行わせることが望ましい」と書かれています。会社に向けて書かれた一文です。

屈伸や片足立ちは、私がそうしていた、という話です。あなたの足にどう合うかは分からないので、勧めるつもりはありません。

よくある質問

Q1. いすが1脚も無い職場は、どう考えればいいですか?

615条は、「しばしばすわることのできる機会のあるとき」という条件つきで、事業者がいすを備えるとしています。国も「個々の事業場の環境や作業内容による」と答えています。あなたの職場がこれに当てはまるかは、この記事では言い切れません。

まずは、明日できることの「探しても無かった時間を数える」から始めてみてください。

休憩室や、横になって休める場所のことは、こちらの記事に書いています。

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Q2. ずっと座っていたほうがいいですか?

腰痛予防指針の解説には、立ち続けると下肢の筋肉が疲れること、座ったまま作業できるいすはその疲れを軽くするのに効果があることが書かれています。一方で、長く座り続けると背中の筋肉が疲れて前かがみになること、座った姿勢のほうが腰椎にかかる負荷は大きいことも書かれています。国は、立つ・座るを組み合わせる前提で書いています。どちらか一方にすればいい、という話ではないようです。

Q3. 足の痛みがひどい日は、どうしたらいいですか?

痛みが強い日や、痛みが何日も続くときは、自分で判断せずに医療機関で診てもらってください。職場に産業医や健康相談の窓口があれば、そこに話すのもひとつの方法です。

まとめ:ものさしを、作業の側に置き直す

最後に、3行だけ。

  • 座りたいと思うのは、やる気の問題ではありません。 立ち作業のいすは、労働安全衛生規則615条で「備えなければならない」と書かれています(条件つき)
  • ただし、どんな作業が当てはまるかは「個々の事業場の環境や作業内容による」。だから、この記事では言い切りません
  • 明日できることは、探しても無くて立って待っていた時間を、数えること。それだけです

私の職場には、いすがありました。それでも、座れませんでした。

だから、まず数えます。

暑さの話でも、同じことがありました。塩飴も空調もあった。備えはあった。それでも、言えなかった。

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座りたいと思った自分を、やる気のない人として数えなくていいと思います。

数えるのは、あなたのやる気ではなく、待っていた時間のほうです。

持ち場を離れる時間のほうでも、似た形のことを書きました。こちらは姿勢ではなく、作業中にトイレへ立つ数分が、制度の上で何の時間なのかという話です。

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この記事の出典


・労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第613条・第615条|e-Gov法令検索
https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032

・国会会議録 2024年5月29日 衆議院厚生労働委員会 発言184・発言186|国立国会図書館 国会会議録検索システム
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/121304260X02120240529/186

・立ち作業の負担軽減対策の取組事例紹介|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43968.html

・職場における腰痛予防対策指針及び解説(平成25年6月18日 基発0618第1号 別添)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000034et4-att/2r98520000034mtc_1.pdf

・Yahoo!知恵袋(2021年5月26日の質問)
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13243755663

※法令や指針は改正されることがあります。読んだ時点の最新のものを、厚生労働省やe-Gov法令検索でご確認ください。
※リンクを付した5件のURLは、いずれも2026年9月22日に閲覧して確認したものです。

  • この記事を書いた人

アヴァン

はじめまして、アヴァンです。電子部品系の工場で働く、現役の製造業ワーカーです。ミスが怖い夜、辞めたくなる朝、なかなか覚えられなくて落ち込む日——現場で私自身がつまずいたことや、そこで見つけた小さなコツを、同じ目線で書いています。えらそうに教える場所ではなく、あなたが明日もうちょっと楽になるための「保健室」でありたいと思っています。

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